★第1話★出逢い

全世界のツインレイが動き出した。
目的はただ一つ戦争を止めるために…

その日
日向奈美は、あるストーリーを書いていた。
男女が情熱的に愛し合い、 
最後は腹上死をして死ぬのだ。
その時、お互いの魂は入れ替わり、
四次元の扉が開くのだ。
“四次元?どんな世界?
そうね。争いのない平和な世界かな…
何を言ってる!
やばいやばい。最近旦那とSEXしてないからかなあ。”

奈美は3児の母親だ。歳は32歳。
子供を育てながら占い師をしている。
旦那様とは最近ご無沙汰気味。
好きだけど…最近何かが違うと思い始めた。
だから、こんなストーリー?
不潔な。

その時電話が鳴った。
奈美は、電話占い鑑定士だ。
「はい?」
「先生ですか?1人占って欲しい人がいまして……気難しい男性の方ですが、先生なら大丈夫だと思いまして…」
「分かりました。繋いでください。」
奈美はそう言うと、
電話を切って占い師の顔に戻った。

だが…
その男性は、そんなヤワな存在ではなかった。
奈美の占い内容にケチをつけ、
ついには罵倒してきた。
「なんだよ!俺が彼女と別れるというのか⁉️」
「いえ、その可能性があるという話でして、今言った事を実行して頂ければその可能性は、少なくなるという話でして…」
「でも、それをしなければダメなんだろっ!
なんだよ!この占い師!ふざけんな!こんなやつを俺に紹介して!責任者出せっ!」
「ちょっと落ち着いてください!」
大変な事になった!まさかこんなお客様が来るとは…!
男性は更に言った。
「おい!お前!」
奈美は、ビクッとした。
「これからお前のいい客になってやるよ。
せいぜい楽しませてやるよ!」
そう言い放ち、客は電話を切った
“なにこれ?何か悪い夢?”
心臓がドキドキした。

そして…
その客は、それから占い会社にお金を払っては奈美の所に電話をかけてくるようになった。
そして罵声を浴びせ、奈美を傷つけるのだ。
なにこれ?
もしかしたら、クレーマーに引っかかったかもしれない。
占い会社にクレーマーかもしれない事実を伝えたが、人より多くお金を払っているので無下には出来ない。
何よりも、奈美ご指名との事なのだ。
クレーマーとの2日に1回の戦い。
その度に、
彼女は占い師として、女として、人間として屈辱を受けていた……

2週間後。
奈美は、すっかりノイローゼになっていた。
夫に相談しても分かってもらえず、途方に暮れていた。
そこで、
同じ会社の占い師仲間に相談することにした。
そこで、霊感を使って占いをする、人気のある占い師から、この様に言われた。
「霊媒師。紹介しようか?」
「霊媒師?」
聞いた事はあるが…本当に解決に繋がるのか?
「霊媒師ってあの…イタコとか、そういう類い?」
「まぁ、そういう目で見る方もいるけど、その霊媒師は21歳の男性。若い子よ。」
「そんなに若いの!?」
大丈夫だろうか…一抹の不安を奈美は感じた。
「まあ、腕は確かだから。そうそう、これ名刺。
ここに電話をかけて相談してみたら?」
ひょいと占い師は、奈美に名刺を渡す。
「霊媒師…れんれん…」
その名前に、何か…懐かしさを奈美は感じた…。

翌日
彼女は名刺の電話番号に連絡し、
とりあえず行ってみることにした。
受付の方が出て予約を取り、
子供達が帰って来る迄、
間に合う時間に予約を取った。
そろそろ昼の11時。
霊媒師とは11時半に約束していた。
前以ってMAPで住所を打ち込み、
下調べをしていた事もあり、時間までには間に合う。
しかし、奈美は不安であった。
その霊媒師に会うまでは…。

時間になり、
奈美は受付を通って霊媒師がいる部屋に通された。
中は暗く、所々、陰陽師の陰と陽が記された印が描かれてあった。
その奥に、若い男が座る。
「よく来ましたね。立花奈美さん。」
あっ!
よく見ると、奈美と同じ赤い髪。
茶色に似た赤い髪であった。
「私と同じ赤い髪…?」
「私の名前は常次 蓮。貴方のもうひとつの魂を持ってます。」
「えっ!?」

★第2話★ツインレイ

「もう一つの魂が繋がっている?
どういうことですか?」
奈美は蓮に聞いた。
赤い髪に、
宇宙人を思わせる赤いカラーコンタクト。
面長の顔は、蓮の白い肌と相まって、まるで透き通るように透明に見える。
奈美は思った。
この、宇宙人らしい男と私が、魂が繋がっている・・・?

「私と貴方は遠い昔、一緒にいた。ツインレイだったんですよ。」
「ツインレイ?」
奈美も占い師の端くれ。
その言葉は聞いたことがある。

ツインレイとは、前世で一つの魂が現世に転生する際、2つに分かれたモノの片割れを指し、
つまり、
自分と同じ魂を持つもう一人という事である。
しかし、このツインレイに出会うのは、
容易な事ではない。
幾年、幾世紀、生まれ変わって、
地球での最終段階として出会うのである。
地球は母なる星だが、修行の星でもある。
嫌なことを克服し、
自分が高次元の魂を目指す星でもある。
その中で、何回かツインレイと出会う事もあるのだが、それは親だったり、兄弟だったり、同性の友達だったりして、すれ違う。
そして何回も転生し、自分が高次元の魂を持ち、相手も高次元の魂を持った時、
初めてツインレイとして、
男と女として出会う事ができる。
しかし、その後も一緒に人生の荒波を乗り越え、どんなに苦しくても離れられない。
そして、天寿を全うしたときに、初めて二人の魂は今までいた地球を離れ、元の星に帰るのだ。
それはどこにあるかはわからない。
しかし、そこは争いのない静かな星で、
愛し合うことができる。
それは、今この物語を読んでいる貴方にも訪れること。

それが・・・ツインレイの伝説・・・

この人が・・・私のもう一つの魂・・・?
でも、それでは私と結婚した功は、
一体何だったのだろう・・・。
あれだけ愛し合い、
でも・・・最近はご無沙汰だ。
すると、蓮がまるで奈美の心を読んだように、
こう語り始めた。
「あなたの旦那様は、やはり絆の深い方です。でも私たち程ではない。
貴方の旦那様と奈美さんは、ツインフレームなのです。」
「ツインフレーム?」

ツインフレームとは、ツインレイに似たような感じだが、世の中に7人ほどいると言われている存在である。
確かに縁深い人ではある。
しかし、一緒に暮らし始めると、この人なのだろうか・・・と疑問も湧いて来るのがツインフレームである。
また、同性の可能性もある。
また、決定的に違う事は、
ツインフレームよりも、ツインレイの方が荒波が多く、一緒に助け合わなければならないことである。

そうか、だから最近この人なのかな・・・と思ってしまったのかな・・・?
奈美は、少し納得したように頷いた。
蓮は、そんな彼女のしぐさをくすっと笑うと、
「今日は、なぜここに来たのですか?」
と、仕事モードに戻った。
「あ、そうです。実は・・・」
奈美は、鑑定中に現れたクレーマーについて話した。
そして、このクレーマーのせいで、食事も喉を通らないほど、辛い毎日を過ごしていると話した。
蓮は「ふむっ・・・」と一言話すと、
「そのクレーマーには霊体が憑いてます。
とても嫌な霊がね。」
そう話し、そして奈美に言った。
「大丈夫。そのクレーマーは、私が追い払ってあげますよ。もちろんお代は要りません。
私がどこまで出来る霊媒師か、奈美さんに見せてあげましょう。」
それから、奈美の手を取り、こう言った。
「ずっと昔から探している人がいる。
もしかしたら貴方の事だったのかもしれませんね、、
僕は青い魂を持っていて、貴方は赤い魂を持っている。
一緒になったら紫になる。宇宙の色ですよ。
紫は神秘の色。宇宙の色です。私が探していたのは、貴方だったのかもしれない・・・。」
それから蓮は、奈美の手をぎゅっと握りしめた。
そして言った。
「奈美さん。手が冷たいですね。寒いんじゃないですか?」
奈美は強がって
「いえ、大丈夫です、寒くないですよ。」
と話した。
しかし、奈美はガタガタと震えていた。
それは寒かったのもあったが、ツインレイと言われた事にも驚愕していたし、
何よりも何故か、蓮に恐怖を覚えていた。
なぜ私はこの人に怖さを感じるのだろうか?
そう思った矢先・・・
ふわっとなにかが、奈美の肩を包んだ。
それは蓮のジャンパーだった。
「蓮さん・・・?」彼女は思わず呟いた。
蓮はにっこり笑うと、
「ほら、私は、奈美さんのことは何もかもお見通しですよ。奈美さんは、とても気が強いですね。」
と、にっこり笑い、
「でも、僕もですよ。」
と、初めて僕という一人称を使った。

そして彼は
「奈美さんの事をいつも遠くにいても、テレパシーで見守っていますよ。」
と話し、初のセッションは終わった。

帰りの電車で、奈美はぼーっとしていた。
あれは夢?
奈美は人がいる中で思いっきり、顔をつねった。
痛かった。
夢じゃない。こんなに近くにツインレイが居たなんて・・・。
奈美は何故か涙が出てきた。
なぜ・・・
“この心が満たされた気持ちはなんなの?
夫の功とは、好き合っていたけれども、
こんなにも魂が震える事はなかった。
この震えを誰かに伝えたい。”
奈美は、今回蓮を紹介してくれた霊視鑑定をしている佳代子に相談する事にした。

真夜中の0:00
奈美は、鑑定の仕事が終った同士、
佳代子と今回の事について話し合った。
佳代子は奈美の言葉を聞き、驚いたように奈美の言葉を聞いていた。
「ほんとにツインレイ!?」
「本人がそう言ってるから、
そうだと思うし、わたしと蓮さんもこんな経験初めてだと言ったの。」
「そうなんだ・・・。」
佳代子はそれから、
奈美の話を2時間程聞いていたが、佳代子の心はまるで別の事を考えていた。
“奈美を取られたくない・・・。”
そう、佳代子は奈美の事が好きだったのだ。
佳代子は考えた。
“どうすれば、
蓮と奈美を別れさせられる?
そうだ、私の得意な霊術で、蓮を奈美の心から追い出してしまおう。”

しかし、物事はそう簡単にいかない事を、
佳代子は後で思い知ることになる・・・。
そうとは知らず、奈美は蓮との事を
少し浮かれながら、話し続けた。

その時!
ポーン・・・!
何かが弾けて転がった。
それは、子供用の小さなオレンジのビニールボールだった。
私触ってないのに・・・!
奈美は、転がるビニールボールを見て、怖さを覚えた・・・。

そして、その深夜。
奈美は厳重にカギを閉め、掃除をし、霊に効くと云われる粗塩を隅に盛って、部屋に結界を張り、寝に入った。
すると、夢の中で青い星が見えた。
なにこれ・・・。
奈美は、その青い星に手を伸ばした。
そこは、幼い頃行ったプラネタリウムだった。

★第3話★回想・・・夢・・・

プラネタリウムでは、ある青い星が紹介されていた。
「シリウスは、おおいぬ座で最も明るい恒星であり、全天21の1等星の1つであります。太陽を除けば地球から見える最も明るい恒星であります。
シリウスは、冬の大三角形を形作る星でもあり・・・」
ーシリウスー
〝この言葉に懐かしさを覚えるのは何故だろう。〟
私は、夜空でこのシリウスを見上げては、
父に抱きかかえられながら、
「カギ・・・カギ・・・。」と言っていた。
そしてこの青い星の影響からか、
昔から青いモノが大好きであった。
青い枕・・・青いペン・・・青い布団・・・青いカーテン・・・。
青が好きだった。

舞台は変わって、奈美が16歳の頃。
奈美は、放課後の教室で友達3人とコックリさんをやっていた。
無邪気に彼氏の今の気持ちや、他のクラスメートの気持ちなどコックリさんに聞いている友達を尻目に、
奈美は一人浮かない顔をしていた。
“こんなの本当に当たるの・・・?
馬鹿みたい。”
奈美はそう思うと、友達からいきなり10円玉を奪い取りこう言った。
「コックリさん。コックリさん。貴方が本当に本物なら、この黒板の赤い円の中に何か文字を書いてください!」
そして黒板に、赤のチョークで大きな円を大雑把に描いた。
すると・・・。

その丸く描いた円の中に、
何か、ぼう...っと水で描かれていた様な文字が浮かび上がってきたのだ。
奈美は驚愕した。
また、友達2人はキャーッ!と騒ぎ始めた。
「呪いよ!呪いーっ!」
その文字は・・・
「青・・・」
そう、
―青―
と書かれてあった。
そして・・・
コックリさんは、まだ何かを伝えるように
文字が書かれている用紙の上で
10円玉を動かし始めた。
10円玉が紙の上をつーっ・・・と動く。
それは・・・
『おまえのいえにいく』
であった。
「まじで・・・!」
他のの女の子は絶句したが、奈美だけは、自分の家に来ると心の底で思っていた。
恐怖!
それしかなかった。
奈美は怖くなり、
夜、恋人の洋介に家に来てもらう事にした。

学校が終わりいつものように、家に帰ると母がいた。
「・・・ただいま。」
「あれ、奈美?あなた家に帰って来てたんじゃないの?」
「えっ?」
「奈美と同じ階段を上る足音だったから、
てっきり奈美かと思って。今帰って来たの?」
「そうだけど・・・どういうこと?」
「2階で物音がしたから、奈美かと思ってたけど・・・。」
奈美は2階に駆け上った。
『ガチャ!』
自分の部屋を開けたが、誰もいなかった。
クローゼットの中を開けた。
いない・・・。
ほかの部屋は!彼女は姉の部屋も開けた。
「いない・・・。」
奈美は呆然としてその場にへたり込んだ。
母がゆっくりと2階に上がって来る。
すると、
奈美が座り込んでる姿を見て、母はびっくりした。
「どうしたの!?奈美!?」
奈美は母に気づくと、今日の出来事は絶対言えないと思い、わざと作り笑いをした。
「な・・・何でもないよ。」
「奈美。大丈夫?奈美がこんなんじゃ、
お母さん仕事に行けないわ。心配で・・・。」
「だ、大丈夫よ。お姉ちゃんも帰って来るし、 
安心して仕事に行きなよ。」
嘘だった・・・。
4つ年上の姉には恋人がいて、今日はお泊りだ。
やっぱり、今日は洋介に来てもらわなきゃ。
怖い・・・。
奈美は心の底で、また思った。

18時になり、母が仕事に出かけた後、
洋介が奈美の部屋に来た。
二人でキスを交わした後、
奈美の部屋の青いベッドで横になり、
洋介は奈美を抱きしめた。
寒い・・・冬であった。
窓は少し開いていて、風が冷たく、
青いカーテンに雨が当たっていた。
「寒い・・・。」
奈美はガタガタと震えていた。
「暖めてあげるよ・・・。」
洋介はそう言い、
奈美の水色のブラを外した。

その時・・・!
『ぶわっ・・・!!』
風が一瞬強くなり、カーテンを押し返した!!
「うわっ!?」
洋介と奈美が驚く。
そして・・・雨が止んだ。一瞬にして・・・。

カーテンの近くに誰かの影が見える。
洋介が言う。
「誰だ!!」
風が凪ぎ、それと共に青白い光が見えた。
それは男だった。
銀髪・・・白い肌・・・そして瞳の色は赤と青。短髪の銀髪の少年だった。
「ひっ・・・!!」
洋介が息をのむ。
奈美も乳房を毛布で隠して、
その状態を唖然と見ていた。
「狐の化身・・・!?」
彼女は思わず呟いた。
「おっおっお化け―っ!!」
洋介は驚くように言うと、
そのまま奈美を置いて、部屋の外へと出て行ってしまった。
残った奈美は、声を出す事もなく、
唯々体中が震えていた。
すると、彼女の脳裏に何かが聞こえた。
『怖がらないで・・・。』
「えっ?」
その銀髪の少年は一瞬にして、奈美のもとへときた。
半分、裸だった奈美は乳房を両の腕で隠し、
「イヤーッ!!」と叫んだ。
『大丈夫、僕は君の昔からの恋人・・・。』
また、テレパシーの様なものが聞こえた。
「何?」
『奈美、覚えている?コックリさんをやった時のことを・・・君は僕を呼んだ。
狐の化身の僕を・・・僕は青と奈美に教えてあげた。僕は青い魂を持っている人物。君は赤い魂・・・』
「いやっ・・・こないで・・・!」
奈美は一生懸命、涙を堪えながら後ずさりをする。
「何故?君は寂しかったんだろう?
僕が一緒に寝てあげるのに・・・。」
銀髪の少年は悲しい顔をした。
奈美は一瞬ドキッとした。
その時!

「・・・・さん・・・・かあさん・・・・・お母さん・・・!」
「はっ!!」
がばっと目を覚まし、奈美はベットの中にいた。
体は汗でべっとりとしていた・・・。
「・・・夢・・・?」
何故か、とてもリアルな夢だった。
目の前には、奈美の子供の育と祥がいた。
「おかあさん。お腹空いた!!」
一番下の育が言う。
時計は7時を指していた。
奈美は二人の子供を、がばっと抱きしめた。
そして涙した。
「お母さん。どうしたの?」
2人が不思議そうに言う。
「・・・何でもないの・・・なんでも・・・。」
下では、長女の絵麻が、朝食を作っていた。

★第4話★愛羅との交信(1)

奈美と蓮が出会って、3日が経った。
二人はラインを交換し合い、
お互いの事を話していた。
その度に、最後は蓮は決まって、
「僕が奈美さんをお守りします。」と話すのだ。

蓮と出会ってから、
不思議とクレーマーはいなくなった。
蓮が何かをしたのだろう・・・。
奈美は思った。

ある日、奈美は久しぶりに買い物に出た。
今日は奈美の休日だ。
デニムのジーンズに、ピンクのTシャツを着た奈美は、5月の新緑の道を歩いていた。
財布の中には、77000円入っていた。
嬉しい。何買おう。
前から育が欲しがってた、可愛いスカートでも買おうかな。
そう思いながら歩いていると、
ショッピングモールが見えた。
ウキウキしながら向かっていると・・・。

いきなり、
視界がぼーっとして耳がキーンとなった。
そして・・・。
『そのショッピングモールで、70000円募金してください。』
と、宇宙人に似た声が飛び込んできた。
「誰!?蓮!?」
蓮は時々、
テレパシーで奈美に呼びかけることがある。
「蓮?どうして募金しなければならないの?」
返事がない。
空耳かな?と思い、
ショッピングモールの入り口に入った。
すると・・・
『今から私の指示に従ってください。洋服売り場に行って、私の指示するものを買ってください。』
「えっ?」
『残ったおつりは、全部募金箱に寄付してください。』
「そんなー!お金なくなってしまう。何でこんなことするの?蓮!」
入り口で大きな声を出したのが悪かったか、
通りすがりの人達は一斉に奈美を見た。
奈美は恥ずかしくなると少し下を向き、
そそくさと洋服売り場へ向かった。
指示は洋服売り場に着いてから、また聞こえた。
『そこを右』
きれいな透明感のある声だった。
男か女か分からない・・・。
やっぱり蓮か?
右に曲がると、
『次はまっすぐ言って左』と声が。
「ラインで電話してくればいいのにいいー。」
奈美がぶつぶつ言いながら歩くと・・・
「そこ!」
と、声の主が言った。
そこはTシャツ売り場であり、奈美が着たことのないキャラクター商品のTシャツが飾られていた。
奈美は、びっくりした。
こんなところに何の用事があるの?
すると、声の主は奈美を遠隔操作した。
途端に、彼女の手が勝手に動いて、
L版のTシャツと、SサイズのTシャツと、子供たち用のTシャツ3枚を手に取らされた。
そのTシャツは1枚はウルトラマン。
残りの4枚はドラえもんのTシャツだった。
声の主が、遠隔操作をやめた。
『さあ、それを持って、レジに行って買ってください。残りのおつりは全て募金すること。』
「これを買うんですか?」
『急いで、貴方にはまだやることがある・・・。』
「やることがあるって・・・蓮!?」
奈美がそう言うが早いか、彼女の足は勝手にレジの方向に向き、レジに着いてしまった。
「いらっしゃいませ。こちら5点でよろしいでしょうか?」
奈美は渋々ながら、「はい・・・。」と言い、
ふとレジの横を見ると・・・。
なんと、ドラえもんの募金箱がそこにはあった。
ヒエー。心の底で奈美が思う。
店員は、バーコードを当てて5点のTシャツを素早く、袋の中に入れた。
彼女は店員の言った金額を10000円で支払い、おつりを財布にしまおうとした。
すると・・・。
『募金がまだ済んでいませんよ。』
声がした。
「でも・・・」奈美が小声で言う。
『大丈夫。貴方は、今日募金した金額より大金が入って来ます・・・。早く募金してください。貴方にはまだやることがある。』
声の主からの2度目の、反復の言葉だった。
仕方なく奈美は、残りの金額を募金箱に入れた。
それは、4000円近くあった。
店員が言った。
「お客様!!こんな大金!!」
奈美は顔で笑って心で泣きながら、言った。
「大丈夫です・・・。困った人に使ってください・・・。」
自分が一番困っていたが、涙を堪えた。

それから奈美は小走りに洋服売り場を出ると、
「はあー・・・。」と溜め息を漏らした。
すると、また声が・・・。
『次はGUにいって、GREENのパンツと、白の半袖のTシャツを買ってください。
おつりは募金してください。』
「蓮!どうしてこんなことするの!?」
『いい事をすれば、必ずいい事が返ってくる。
奈美・・・早くしてください。』
蓮と思い込んでいた奈美は渋々ながら承知し
、エスカレーターを下り、GUに向かった。

GUに着くと、色とりどりの美しい洋服がハンガーに掛けられていた。
奈美はGUの店内を歩き、
まず、GREENのパンツを探した。
すぐ見つかり、奈美が履いた事もない、大人っぽいヒラっとした、ワイドパンツが見つかった。
明るい緑だった。
それを手に取ると、次に彼女は、
白の半袖のTシャツの売り場に向かった。
普通の白のTシャツに手を伸ばそうとすると・・・
手が勝手に動いて、
奈美が着たこともない白のシフォンのブラウスを掴んだ。
そのブラウスは、天使の羽のような襟が付いている、ボタンのない絹のブラウスだった。
しかも高い・・・。
お金が―・・・。
奈美は6000円もするブラウスと、5500円のワイドパンツをGUで買い、11000円で買おうとした。
すると・・・。
『20000円で払ってください。おつりは、募金してください。』
また、蓮かも知れない声だ。
もう、こうなったら矢でも鉄砲でも持ってこい!奈美は腹を括った。
蓮も、何か考えがあっての事かもしれない。
奈美は20000円でそれを買うと、残りの9000円を募金箱に入れた。
幸い、セルフレジだったので、募金箱はあったがうるさく言う店員はいなかった。
それから奈美は、店内の外に出た。

奈美が外に出ると、
忽ち、次の指示が降ってきた。
『次は靴屋へ行って、銀のハイヒールを買ってください。残りは募金してください。』
「はいはい。分かりました!買えばいいんでしょ?買えば。」
そう言い、奈美は靴屋に入って行った。

靴屋の中は、
5月らしく初夏を思わせる、可愛いサンダルや、パンプスが所狭しに置いてあった。
「えーっと・・・銀のハイヒール・・・銀のハイヒール・・・。」
店内の奥の方にそれはあった。
夢の中の男の子の髪を思わせる銀色・・・。
7000円であった。
奈美は、自分のサイズの23.5を合わせようとすると・・・
なんと勝手に手が動いて、22.5のハイヒールを掴んだ。
「蓮!それじゃないってばっ!」
しかし時すでに遅く、無情にも勝手に足が動き、そのハイヒールをレジに持って行かれてしまうのだ。
「こちらでよろしいですか?」
靴屋の店員が聞く。
蓮。何をさせようとしているの?
そう思う間もなく、それは箱に入れられ、
袋に詰められてしまった・・・。
渋々ながら、奈美は7000円を払い、
おつりは募金箱に入れた。
「お客様!いいんですか?おつりを募金箱に入れて・・・!?」
店員の声も聞こえないふりをし、奈美は靴屋をボー然としながら後にした。

蓮。あなたは何を考えているの?
私分からないわよ。
財布の中の僅かに残ったお金を見ていると、
奈美は涙が出てきた。

すると・・・。
『聴覚検査をやっています。』という立て看板が奈美の目に映った。

★第5話★愛羅との交信(2)

聴力検査、視力検査と書かれてある場所に、
なぜかふらふらと入って行く奈美。
中では、白いテーブルに白い壁。
そして、奥には黒いカーテンで覆われている部屋が2つほどあった。
受付の女性が言う。
「聴力。視力をお調べになりますか?」
「はい・・・。」
そんな気分ではなかったが、
なぜか声を発してしまった。
「こちらへどうぞ。」
女性は奈美を右の黒いカーテンの部屋に連れて行った。
どうやら、右が視力。左が聴力の部屋のようだ。
幸い、人は居なく、
検査員がカーテンを開けるとニコニコと応対してくれた。
「ようこそ。それでは左から検査します。この遮蔽板で右の眼を覆ってください。」
そう検査員が言うと、黒い目に当てる、遮蔽板を奈美に渡した。
そして、視力検査が始まった。
ランドルト環の検査表から5メートル程離れて、奈美は右。左と検査員が指していく文字を当てていった。
検査員は、驚いたように言った。
「2.0。凄く視力がいい方ですね。」
えっ・・・?私、視力は悪い方なのに・・・?
驚く奈美を尻目に
「次は、右ですね。」と彼女を促す。
「はい・・・。」
奈美は、遮蔽板を左目に当てた。
そして、左目と同じように
「右・・・左・・・」と答えて言った。
一番下の検査表の文字も、見事に答えきった奈美を見て、検査員は、ふうーっと溜息をついた。
「2.5。信じられない・・・。」
奈美も信じられなかった。どういうことなの?
二人の間に、異様な空気が流れた。
それを止めたのは、助手の女性だった。
「先生。次は聴力を・・・。」
その言葉を聞いた検査員は、はっと我に返った。
「あ・・・申し訳ありません。次は聴力ですね。準備をしますので、このヘッドフォンを着けてお待ちください。しばらく何も聞こえませんが、3分ほどお待ちください。」
それから、奈美に灰色のヘッドフォンを着けさせると、5メートル程離れた場所で検査員と、助手が準備を始めた。
この距離では当然、
奈美には何も聞こえない筈だった。
しかし・・・ふいに小さく声が聞こえた。
「どうなってるんだ・・・あの女性は・・・?」
「分かりません・・・何者なんでしょう・・・?」
彼女は、ぼそぼそ聞こえて来る声が煩わしく、検査員を思わず呼んだ。
「あの・・・すみません・・・。」
検査員が彼女の方を見て、
ヘッドフォンを外した。
「なんか・・・もう聞こえているんですけど・・?」
「はっ?」
「何かぼそぼそ・・あの女性は何者だとか・・・?」
その場にいた検査員と助手はぞっとした。
私たちの声が全部聞こえている?
彼は言った。
「そんな筈はないです!とにかく・・・聴力検査の準備ができましたので、始めましょう。」
戸惑いを抑えるかのように、奈美にヘッドフォンを着けさせると、
マニュアル通りに聴力検査を始めた。
『キーン・・・』
奈美は、
「聞こえます」と答えた。
彼は少しずつ、音を高くし、
そして、小さくしていく。
それにも奈美は、
「聞こえます」と答えた。
検査員は、これでもかと音を小さくした。
普通の人では聞こえない程度の音だ。
それにも奈美は
「聞こえます」と答えた。
検査員と助手は唖然としながら、
震えた手で奈美のヘッドフォンを外した。
「信じられない・・・。失礼ですが・・・あなた何者なんですか・・・?」
奈美はその言葉を聞いて、少しまずい雰囲気だということを察し、その場をそそくさと逃げる様に後にした。

さすがに、ここまで来ると、なんだか蓮がこんな事をしていない様な気がしてきた。
では、誰が・・・?
すると、また声が聞こえてきた。
『次は、ランジェリーショップにいって、ブラジャーを買ってください。白の美しいブラを・・・。』
「待って!あなた何者なの!?」
返事がない・・・・。
とにかく、何か意味がある事の様な気がして、
奈美はランジェリーショップに向かった。

ランジェリーショップに着くと、奈美は白いブラを探し始めた。
そこは〝アイラ〟
という名前のランジェリーショップだった。
真っ白で羽がついているようなブラが、
そこにはあった。
奈美のサイズはCカップ70だった。
ところが・・・
奈美の手は、
勝手にDカップのブラを取ってしまった。
さっきの靴屋と同じ状況だった。
勝手にブラを取り、その足は勝手にレジへ向かった。
ブラを買って、残りは募金をした。

奈美が、ランジェリーショップを出ると、また声が聞こえた。
『次は本屋へ行って、私の指定する本を買ってください。』
「待って!あなた、何が目的でこんな事するの!?」
また、声は聞こえなくなったが、
暫くして、声の主はこう答えた。
『すべてが終われば分かります・・・。』
そう言って、通信は途切れた。

何が何だかわからない奈美は、
呆然としていたが、
とにかく声の主の指示に従ってみる事にした。
さて、ここから本屋まではかなり距離がある。
奈美は疲れ切った心で、本屋へと歩き始めた。
何せ、大きなショッピングモールなので、
端から端まで20分程かかる。
はあー・・・とため息をつきながら、奈美は歩く。
ショッピングモールには、色とりどりの靴やバック。
服などが、それぞれの店毎に陳列されていたが、
今の奈美には要無しだった。
とにかく、本屋に行く事を考えていた。
そして、20分かけて本屋にやっと着いた。

本屋の中に入ると、声の主から指示が入ってきた。
『そこの奥』
奈美は言われた指示に従った。
すると、そこは、天文学と宇宙のコーナーだった。
『その前の棚』
宇宙のコーナーだった。
奈美は、そこの本を取ろうとすると、やっぱり手が勝手に動いて、ある1冊の本を手に取っていた。
「シリウス?」
『その本を買ってください。』
声の主が言った。
奈美は、声の主の指示に従い、その本を買った。
600円だった。
おつりは募金した。
「お客様ー!こんな大金!ありがとうございます!」と言う店員の言葉をよそに、奈美は本屋を出た。

奈美が本屋を出ると、その向かいに楽器屋があった。
そこには、沢山の楽器があったが、奈美が特に惹かれたのは、ローランドのピアノだった。
思えば昔、奈美の家は金持ちで、グランドピアノが置かれてあった時期もあった。
それは奈美が6歳の頃、彼女が青い星のことを、
『カギ・・・』と言っていた時期でもあった。
彼女は展示され、蓋が開けられてある、
ローランドのピアノに近づいた。
そして、『ポーン・・・』 
と、〝ド〟の音を鳴らし、
続いて〝レ..ミ..〟と鳴らした。
途端に、奈美に魔法がかかった。
奈美の知らない曲を、そのピアノはメロディを奏でていた。
彼女が弾いていた曲は、
ジョージウィンストンの『Longing』だった。
それは・・・哀愁漂う懐かしい音。
バイエルしか弾いた事のない奈美には、
新鮮な曲であった。
その曲が終わると、
次は、パッフェルベルの『カノン』を弾きだした。
子気味いい調子で、勝手に手が動き音を弾き出し、
完璧なリズムで奏でていた。
途端に買い物をしていた方達が注目をする。
奈美の前には、かなりの人だかりが出来た。
奈美は、恥ずかしかったが、
手が止まらないので、弾き続けるしかなかった。
3番目の曲は、『青葉の歌』という曲だった。
奈美はこの曲は知っていたので、歌いながら弾いた。
そういえば、この曲は中学校の時の音楽コンクールの時に弾いた曲だった事を、彼女は思い出した。
客の中にはその曲を、奈美に合わせて、
歌うものもいた。
♪世界中をつなぐ日がきっときっとやってくる~♪
♪煌めけ~青葉よ~♪
途端に、みな、サビの部分で大合唱した。
全て曲が終わり手が止まると、
奈美の周辺の客が、わっと歓声を上げ、
拍手喝采が起きた。
客の一人が言う。
「上手でした!あなた・・・どこかのピアニストさん?」
「いえ・・・手が勝手に動いてしまって・・・。」
奈美は、苦笑いをした。
「はあ?」
客は目を丸くしたが、謙遜で言っているのだろうと解釈し、手を叩き続けた。
奈美は、そんな客たちを尻目に、
すっと椅子から降りると、あてもなく楽器屋を出た。

奈美は、自分の手のひらを見た。
私に、こんな事が出来るなんて・・・。
そんなことを思っていた奈美のお腹が、
『グーキュルル・・』となった。
「お腹空いた。」
奈美はそう思うと、
地下のフードコートに降りて行った。

フードコートは活気が溢れていて、
楽しそうに食を楽しむ人々で賑わっていた。
奈美は、何を食べようか迷った。
すると・・・
なぜかとんかつ屋の看板が目に留まった。
普段とんかつなんか食べないのに・・・
どうして今日に限って、こんなに無性にとんかつが食べたいのだろうか?
不思議な感覚に捉われながらも、
奈美はとんかつ屋に入っていった。
とんかつ定食を注文すると、
奈美は物思いにふけった。
私に指示を出してくる声の主・・・あれは蓮なの?
それとも・・・宇宙人?
そんな思いにふけっていると、
とんかつ定食が出てきた。
「はい。お待ちどうさまでした。」
奈美は初めてのとんかつを、一口頬張ってみた。
「んっ!!」
なんだろう・・・こんなに美味しい感触を、奈美は感じた事はなかった。
脂っこいはずなのに、とてもすっきりしている。
「美味しい・・・・。」
初めての食感に、彼女は夢中になって
とんかつを食した。
お腹が空いていたから?いや、それだけではない。
今まで食べた事のないその感動の食感、味に
彼女は涙した。
味覚までもが研ぎ澄まされていた。
そうか・・・これが生きるということか・・・。
ほかの命を食し、そして人間は生きている。
なんて尊い行為。
涙の中で、奈美は生きる意味を悟った。

とんかつ定食の代金を1万円で支払い、
おつりは全額募金した。
「お客様!こんな大金!」
という言葉も聞かず、奈美はとんかつ屋を後にした。
お財布の中はきれいさっぱり、1万円はなくなっていて、あと7000円だけが残っていた。
それでも、奈美はとても満たされた気持ちであった。
僅か数時間の出来事だったけど、
不思議な体験をさせてもらった。
それだけで、なんだか楽しくなった。
これも蓮のおかげね、ありがとう。
と、思っていると・・・
また、耳がキーンとなった。
『次は、私の指定する、仏壇屋に行ってください。
購入したそのものを、全て身に着けてください。』
「えっ?このサイズの合わないものを・・ですか?」
奈美は仰天した。
『そうです。早く着替えてください。仏壇屋に行けば貴方がこれから行う使命が分かる。貴方にはまだやらねばならない事がある・・・。』
そういうと、声の主は黙した。
「そんなー。」
しかし、そんな事を気にしている場合ではない。
奈美はトイレでそそくさと着替えると、全て身に纏った。
特に、靴はきつきつでしんどくて、
それでも奈美は履いた。
全て着替えると奈美は、
ショッピングモールを後にした。

声の主の通りに行くと、ある仏壇屋に15分程で着いた。
「キャッスル仏壇屋・・・。」
3階建てのその仏壇屋は、奈美が今まで行った事がない場所であった。
奈美は恐る恐る入った。
『ちりんちりん』と店内に音がし、
「いらっしゃいませ。」と、声が聞こえた。
店中は澄んだ空気に満ちており、5月の外の喧騒さとは一変して、厳粛な雰囲気であった。
所狭しと、様々な仏壇がおかれていた。
お経本がすぐ側に並んであった。
〝真言宗〟のお経本を声の主は手に取らした。
次は数珠の方へ・・
数珠コーナーに行ったが、
¥10000、¥20000と書かれてあり、
とても奈美には手が出せない数珠ばかりであった。
「70000円あったらなー。」
苛立つ奈美の目の前に一つだけ、
〝ラピスラズリと檜でできた数珠〟が飛び込んで来た。
その石は蒼く、深海を思わせるような色であった。
しかも、値段も安かった。
奈美は俄か、クリスチャンだった。
都合のいい時だけ、十字を切る。
要するに無宗教に近い人種であった。
しかし、いま真言宗のお経本を買い、数珠を手にしている・・・。
「どういうことなんだろう・・・。」
とにかく、声の主が蓮か誰か分からないまま、
彼女はそれを手に取り、レジに向かった。
「7000円です。」
レジの店員の声が子気味よく響く。
奈美は、7000円出した。
お財布の中身は、これできれいさっぱりなくなった。ピッタリなくなった事に驚いた。
奈美は、真言宗について知らなかったが、
蓮か、はたまた他の誰かが指示をするだろうと思い、仏壇屋を後にしようとすると・・・。
「お客様にお見せたい方がいらっしゃいます。」
女性の店員が奈美に声をかけてきた。
「えっ?私?」
「はい。こちらへどうぞ。」
奈美は、店員の言われるとおりに奥へと向かった。
「こちらが、真言宗の神様ですよ。」
奈美が言った先には・・・。
金色の仏像が目に飛び込んできた。
その途端に、奈美は凄いパワーを感じた。
『大日如来様。貴方の守護神であり宇宙神ですよ。』
声の主は言った。
その姿は、神々しく何物にも邪魔されない圧倒的な光を放っていた。
そして、そこの空気は、今までに感じた事のない、
とても澄んだ、柔らかい空気であった・・・。

奈美は仏壇屋を出ると、直ぐに蓮に電話した。
「蓮さん。これどういうことですか?テレパシーで私にわけの分からない指示を出してきて!?
えらい目に遭いましたよ。」
ところが蓮は・・・
「えっ?奈美さん。それ僕じゃないですよ。」
というだけであった。
「えっ!?じゃあ誰ですか?」
「僕には正直分からないです。」
謎に包まれたまま、奈美は電話を切った。

「おっかしいなー。じゃあ誰だろう?」
そう思っていると・・・。
『立花奈美。私は貴方と同じ並行時空で生きるものよ。ハイヤーセルフ・・・高次元の貴方です。私の名前は・・・愛羅・・・。』
「えっ?」
その途端に、奈美は時空の彼方に引き込まれた。

周りは一色の紫。
そして星や星雲が所々に散りばめられ、
見た事もない景色が広がっていた。
広大な宇宙。それがそこにはあった。
愛羅は、奈美の近くにいた。
金髪のくるくるの巻き毛。目は青。透き通った白い肌、白い羽のような衣装は奈美を魅了した。
『立花奈美。貴方は神の遣い。地球の為に生きる使命を持っている女性。これから、貴方に降りかかる試練は、すべてその時の為のもの。苦しいですが、生き抜いてください。生きて戦ってください。試練に打ち勝ってください。私はそれを伝えにここに来ました。』
「試練に打ち勝つ・・・?」
『そうです。そして、どんな事があっても蓮を信じてください。貴方たちは2人で1つの魂。
ツインレイなのだから。』
「ツインレイ・・・。」
3日前に聞いた蓮から聞いた言葉・・・。
『ツインレイの試練はとても辛いもの。だから大抵の人は投げ出してしまう。そしてまた、生まれ変わった時もツインレイを探す。それほど無常で苦しいものなのです。だから、どんな事があっても、蓮を信じて。貴方が蓮を信じなくなると、私は消えてしまう。』
「愛羅が・・・?」
『これから、貴方に降りかかる試練は、とても辛いものになるでしょう。場合によっては、蓮を信じられなくなるかもしれません。私は貴方が蓮を信じる限り、出来うる限りのことをします。でも、蓮を信じられなくなったら私は消える。それだけは覚えておいてください。』
そう言って、愛羅は消え、宇宙もなくなった。
目を開けると普通の日常の風景が流れており、
5月にしては暑かった。
隣を見ると、キャッスル仏壇店はなくなっていて、別の店になっていた・・・・。
奈美は驚いた。
慌てて、さっき買ったものを紙袋から見つけた。
ラピスの数珠もお経本もあった。
「・・・・・どういうこと・・・・?」
そして不思議な事に、
着ている服や靴が奈美のサイズにぴったりフィットされていた。
奈美は怖くなり、早めに帰途についた。

翌日の早朝。
誰かが・・・寝ている彼女の足を引っ張った。

★第6話★死神

その日、奈美はAM4:00に目が覚めた。
誰かに足を引っ張られたような感触があったからだ。
その時に窓の外から、
『ファンファンファン・・・』
サイレンのような音が聞こえた。
その音は、段々と近づいてくる。
外は明け方の薄暗さはあったが、
晴れかけていた。
その音が近づくと、奈美は寒気を覚えた。
音はだんだん近づいてくる・・・。
どうしよう・・・。怖い・・・。
蓮!!
その時、奈美は紙袋に入っている経本とラピスラズリの数珠を見つけた。
ばっ!と、
その経本と数珠をひったくる様に取ると、初めての数珠を手に引っ掛け、経本を持ち、
震えながら『般若心経』を唱えた。
すると、なんと初めてなのに、すらすらと詠めるではないか。
その時、奈美の脳裏に何かが浮かんできた。
霊媒師の佳代子が、蓮と奈美の前世を見たとき、2人は修行僧だったと。
ああ・・・・。だから詠めるんだ。
奈美は暫く、『般若心経』を詠み進めたが、
全然震えも止まらず、変な音はどんどん近づいて来る。
彼女は、『光明真言』という頁をめくった。
それが、最強のご真言だという事を奈美は、
過去世の記憶を辿り解った。
一刻も早くこの状況を打開しなきゃ。
何故か、恐ろしく嫌な予感がする。
そう思いながらも詠み進めたが、全然効かない。
その時!変な音が止んだ!
奈美は思わず、『ガラッ!』
とカーテンを掻き分け、
勇気を出して、窓を開けてみた。
すると、桜の木の枝に1羽のカラスが止まっていた。時が止まっているような感覚を奈美は覚えた。
しかし・・・。
『ザザッ・・・ザザッ・・・ザザッ・・・』
自分の方向に向かって来る足音が聞こえた。
そこには、タロットカードなどでよく見る、
黒装束の骸骨の死神が立っていた。
奈美は怖くなり、焦って窓を閉めた。
すると、また『ファンファンファン・・・』
という音が聞こえてくる。
奈美は、耳を塞いだ。
「やめて!やめてよ!」
私を殺しに来たの?
恐ろしくなった奈美は、スマホを持つとラインを開き、蓮の名前を探した。
蓮のラインには1件の着信が入っていた。
それは、奈美が足を引っ張られたその同じ時刻であった。
奈美は、急いで蓮に電話をかけ直した。
しかし、蓮は電話に出なかった。
外の音はどんどん大きくなっていく。
幻聴!?・・・幻覚!?・・・
なぜ、こんなに大きな音なのに、みんな寝静まっているの!?
耳を塞いで、怯えている奈美のもとに着信が入った。
蓮だった。
奈美はその電話を素早く取ると、通話ボタンを押した。
「奈美さん!今、僕に電話しました!?」
奈美は泣きながら、蓮に言った。
「蓮さん・・電話しました!
外にしっ・・し・・・死神がいて・・・変な音がして・・・怖い・・・怖いよ・・・助けて!!」
「こちらに・・・着信履歴がないんですよね。」
「え!?じゃあどうして、電話して来たんですか?」
「実は、私の夢の中に、奈美さんが出て来て、暗い顔をして立っていたので、奈美さんの足を引っ張って、先程起こしたのです。」
「足を引っ張ったのは、蓮さんだったんですね。」
「大丈夫ですよ。今からお経を唱えますから。大丈夫・・・私は奈美さんの味方です。」
奈美は、ほっとした。
しかし、ほっとした途端、子供たちが寝静まっている姿を見た。
「蓮さん。どうしよう。子供たちが・・・!」
「子供たちも大丈夫です。僕が結界を張っていますので、奈美さんはそこにいてください。」
そうして、蓮は電話の向こうで杖を持ち出すと、それに数珠をひっかけ、わけの解らないお経を唱え出した。
その言葉は、サンスクリット語だった。
その途端、奈美の寒気は止まり、
窓の外の死神の歩く音も、奇怪な音も消えた。
「もう、大丈夫です。」
3人の寝ている子供たちを抱きしめていた奈美は、その電話越しの言葉に安心して、
はあー・・・とため息をついていた。
蓮が言う。
「怖い思いをしましたね。でも大丈夫。また何かありましたら連絡ください。」
そう言って、蓮は電話を切った。
奈美は、電話を切った後、子供たちを連れて、実家に行く事に決めた。
死神が出た家なんて、1秒も居たくなかった。
幸い実家は奈美の家のすぐ近くにある。
旦那を置いて、奈美は子供たちを連れて実家に行く事に決めた。

実家に行き、子供たちを学校と幼稚園に車で送り届けると、親友の涼子が、塩と唐揚げを持って奈美のもとにやって来た。
涼子と会うのは久しぶりだった。
奈美は、涼子に会うと開口一番にこう言った。
「なんで塩と唐揚げなの?」
「友達のヒーラーさんが、塩持って行ってあげなって言ってたの。何のことか分からなかったけど、唐揚げは私の揚げたてよ。」
涼子はにっこりと笑った。
彼女も占い師である。
しかし、涼子はどちらかというと、占いを趣味でやっており、彼女の友達のヒーラーはFacebookで知り合った近所の占い師であった。
そう言って、涼子は唐揚げと塩をどんっ!とテーブルの真ん中に置き、彼女は茶色のソファーによいしょっと腰を下ろした。
「さすがヒーラーさん、お見通しだわ。」
奈美が、ひとつ唐揚げに手を伸ばす。
サクッという美味しそうな音とともに、ニンニクの風味が香ばしい。
その途端・・・。
奈美の脳裏に何かが浮かんだ。
それはあの時、奈美が弾いたローランドと同じピアノを弾いている涼子の姿が。
「涼子・・・。」
「うん?」
涼子が、唐揚げを頬張りながら、奈美の方向を向く。
「あんた、ローランドのピアノ買うでしょう・・・?」
涼子が驚く。
「どうして分かったの!?私奈美に言ったけ!?」
「私ね、この間弾いてきたの。ショッピングモールにあったローランドのピアノ。凄く良かったよ。それと同じものを弾いている涼子の姿が今視えて・・・。頭が痛い。」
「奈美!?大丈夫!?」
涼子は思った。霊感の強い涼子は、奈美に何か起きている事を悟った。
その時、〝コンコンコン〟と
扉を叩いて来るものがいた。
「奈美ちゃんが帰って来るって聞いたから、仕事さぼっちゃった!・・・あれ?」
満面の笑みを浮かべて、保険屋の理恵がやって来た。
この50代の女性も、霊感が強い。
「奈美ちゃん。どうしたの?何かに取り憑かれているわよ。いつもと顔が違うし・・・死神にでも取り憑かれた?」
「死神!?」
奈美はびっくりした。
「理恵ちゃん。そんなことあるわけないでしょう?奈美が死神に取り憑かれるなんて・・・。」
涼子は言った。
「ある・・・・。」
奈美が、徐に言った。
2人はぎょっとした。
奈美は朝遭った出来事を、2人に話し始めた。
2人はその話を聞いて、
リビングのソファーで寝っ転がっていた奈美を強引に起こし、塩を持って外へと出た。
そして、「妖魔退散!!」と言いながら、
思いっきり塩をぶち撒けた。
「何するのよ!!」
塩だらけになった奈美が言う。
「塩は、死神に効くのよ!!私たちまで取り憑かれたら堪らないわ。ここで死神を追い払うのよ!!」
「そうよ、奈美!!しっかり目を瞑って!!」
涼子と理恵は団結したかの様に、塩をぶち撒ける。
「ひえー!お助けー!!」
奈美は、2人の塩攻撃に逃げ回った。

もちろん。そんな事で死神が退散するとは思えなかった。
酷い目に遭った。
奈美は2人が帰った後、シャワーを浴びた。
そして、その夜。
功との電話が終わった後、蓮に電話した。
功は、子供たちの事を心配しているようだった。
私の事は心配じゃないのかい!
ブツブツ文句を言いながら、蓮のラインを見つけ、電話をする。
蓮は直ぐに出た。
「奈美さん。その後変わった事は・・・。」
「はい・・・なんか、いつもと顔色が違うと友達2人に言われまして・・・。」
「ふむっ・・・。」
蓮が一瞬考え込む様に黙る。
「そうですか・・・。しつこい死神ですね。このままでは危険です。分かりました。もう一度私がお経を唱えて、死神を剝がしましょう。」
「お願いします。」
奈美がそう応えると、
蓮は、先程の杖を今度は地面に思いっきり叩きつけ、ジャッ!と黒い数珠を素早く手にかけた。
そして祈り続けた。
蓮のその姿は勇ましく、体中が炎に包まれたかのように、サンスクリット語でお経を唱え始めた。
奈美は畏まって、ただスマホで蓮の唱えるお経に縋り付く様に聴いていた。
熱い・・・何て熱いの!!
何かが苦しんでいるのが分かる。
私の体内で・・・。
奈美は熱すぎて、思わず声を上げてしまった。
「ああああああ―っ!!」
がくっと、項垂れた。
「もう大丈夫ですよ。」
蓮が言う。
「もう、取れたんですか?」
「はい。もう大丈夫です。」
奈美は、きょろきょろと辺りを見回した。
熱さはなくなっていて、いつもの体温だった。
「蓮さん、ありがとう。お代だって高いのに。いくら位払えばですか?」
奈美が聞く。
「そうですね。では、奈美さんの笑顔で・・・。」
「えっ・・・?」
そう言うと、蓮は恥ずかしかったのか、電話を切ってしまった。

奈美は、ふっと昔のときめきを思い出した。
そして、昔よく使っていた、占いの本を棚から見つけて取り出した。
願いを込めて、その思ったページを開くと、答えが見つかるという本だ。
奈美は強く想いを込めて、その本に問いてみた。
〝私と蓮はツインレイで、星に帰りますか?〟
ぱらっと奈美はページをめくった。
すると、
〝帰る〟
と出た。

私たちはツインレイ・・・。
2人で1つの魂を持った2人。
何ものも私たちを、引き離せない・・・。
奈美は、窓の外の星を見ながらそう思った。

★第7話★口寄せの魂

その1週間後、朝6:00に目を覚ますと、
奈美の脳裏にまた声が聞こえてきた。
『奈美。起きなさい・・・・。』
奈美は、きょろきょろと辺りを見回した。
誰もいない。
すると、声の主がまた話し出す。
『私は大日如来。貴方が死神に苦しめられていたのを鑑みて、私も愛羅と共に貴方を守る事に決めました。
これからあなたは黒い着物に着替え、本日葬式の主である、伯父の晴彦の本当の気持ちを伝えなさい。それが貴方の役目です。』
「私・・・そんな事言われても、そんな・・・亡くなった伯父の気持ちを話す事なんて出来ません。」
大日如来が話す。
『大丈夫。私が助けます。これは貴方にとって、とても大事な事なのだから。』
奈美は暫く考えていたが、やがて言った。
「分かりました。やってみます。」
そう言うと、
奈美は黒い着物に着替える為、支度を始めた。

その日は、福島に住んでいた伯父の葬式の日であった。
伯父には息子の春太郎という長男がいたが、仲が悪くお墓も作らないと言っていた。
従って、無縁仏の状態で、永代供養をする事になっており、今日の喪主は伯父が学んでいた、民謡の三味線の家元が務めることになっていた。
亡くなった晴彦には、億を超える太陽光発電を作り、その電気の販売をする土地があった。
それは、東日本大震災の時に、所有していた田畑が放射能で汚染され、飼っていた牛が全滅してしまったため、国からの保証により莫大な損害賠償金が入り、太陽光の事業に力を入れていたからだった。
奈美は着物に身を包んだ後、数珠とお経本を持ち、叔父の晴彦が眠る床の間へと、いそいそと足を向かわせた。
そして、床の間につくと、死化粧をしている伯父の直ぐそばに座った。
彼女は仏壇の蝋燭に火を灯し、お線香を3本立てると、ラピスラズリの数珠を両手にかけ、
手を合わせ、般若心経を唱えだした。
途端に、寝ないでそこにいた遺族が一斉に奈美の方を向いた。
すでに、経本は必要なかった。
すらすらと言葉が出てくるのだ。
不思議な感覚に奈美は襲われたが、
それでもお経を唱え続けた。
すると、奈美の後ろから白い手がすっと見えた。
途端に、過去世の記憶が奈美の心に蘇って来た。
そうだ!
私と蓮さんは、川の横にある赤い地蔵が並んでいる寺院で、2人で白い服を着ていた修行僧だった。
川のナガレが早く、私たちは滝行をしていた。
川のほとりには、
大きな石や小さな石が転がり、茅葺き屋根のお寺があった。
私たちの性別は反対だった。
男が私で、蓮さんが女。
次の瞬間、はっと彼女は我に返った。
その途端!
『ぐおおおおおおお・・・・・』
何とも言えない、とてつもない氣の塊が、
奈美の体に入ってくるのを感じた。
それは伯父の魂だった。
奈美はしばらく、黙していたが・・・やがて言った。
「ゆう・・・・。」
そこにいた、奈美の姉の優菜が驚愕したように、
奈美の背を見た。
「ゆう・・・・いるが・・・・?」
それは、奈美ではなかった。
奈美の声ではあるが、聞き覚えのある話し方。
優菜は、思わず言った。
「おじちゃん?」
「ゆう・・・。旦那と一緒に和弘のところに行け。
おらが持っている太陽光を引き継ぐように話してあっがら。必ずうまぐいくから・・・・。春太郎。・・・あいつにはやらん。おめぇ、、姪のゆうにたぐしであっから。遺書があっがらよ・・・。」
伯父は、突然死であった。
然し、万が一の事を考えて、彼は友人の和弘に遺言状を渡し、太陽光発電の土地を奈美の姉の優菜に託したのだ。
その時、優菜は泣いた。
「おじちゃん!私・・・太陽光なんていらん!私は、おじちゃんの民謡に合わせて、三味線を弾くのが好きだったのに!そんなもんいらん!おじちゃん!もう一度生き返って民謡歌ってよ―っ!!」
おいおいと優菜は泣いた。
それにつられる様に、親族全員が泣き出した。
優菜は三味線の名取であり、伯父の晴彦が歌う民謡と合わせて、7月に晴彦と共演し、福島の被災者の前で舞台で、演奏をする事になっていた。
続いて、奈美は前を向くと、
奈美の母の葉子に声をかけた。
「ようご・・・。悪かったな。いろいろと迷惑をかけて、すまながった・・・。正となかよぐやってけな。今までお礼の一言もいえなぐて、すまながっだ。ありがとな。」
葉子と正は奈美の親であり、伯父の晴彦は正の兄だった。
「お義兄さん・・・。」
葉子は、ハンカチも持たず化粧が落ちるのも構わず泣いた。
その声は、晴彦そのものだったからだ。

そして・・・・。
奈美は伯父に代わって話をした後、
何かが離れていく感覚を覚えた。
ふっと我に返る奈美。
白目を剥いた後、我に返った。
「・・・あれ?お父さん。お母さん。お姉ちゃん?」
奈美が言った。
「奈美!?奈美なの!?」
葉子が言う。
「奈美?は!?さっきのはおじちゃんよね!?」
優菜が言った。
体の中に伯父が入っていた記憶はあった。
私は、一瞬いたこになったのか?
私にそんなことが出来るなんて・・・。
奈美の中で何かが変わった。
これが・・・私の使命・・・?
奈美は手応えを感じた。

奈美たち一家は、昨日の夜から福島にいた。
葬儀場に着くと、そこには晴彦の息子の春太郎を除く、家族、親戚、三味線の家元、お弟子さん、名取の人たち、伯父の民謡の仲間、福島の被災者たちが沢山集まっていた。
伯父の葬儀には、家元が喪主を務め、荘厳に行われた。
葬儀場には大きな写真があり、伯父の好きだった民謡に合わせて、写真がスライドしてながれていく様子が見られた。
伯父の遺影の近くには白いバラがあり、その前で僧侶が読経をする。
みな泣きながら、お焼香を済ませ、それが終わると、ついにお別れの時が来た。
家元が、檜の棺に入った伯父の体に、彼が生前着ていた羽織を、ふわりとかけた。
その一瞬、伯父の顔が、にこりと笑ったような気がした。
伯父は90歳でこの世を去った。
しかし、とても若々しく見えた。
とても粋のいい、お洒落の好きな男性だった。
彼が生前好きだった、白いバラをみんなで1本ずつ棺に入れ、
優菜が隠し録りをしていた、伯父の民謡の録音テープを1つだけそっと入れた。
それは、
福島民謡の『会津磐梯山』という曲であった。
それから、棺の蓋は静かに閉じられた。
最初の1本の釘を、家元が石で叩き、そして優菜、奈美、奈美の父母、親戚と打たれていく・・・。
全ての人たちが打ち終わると、釘は業者に寄って木づちで四方八方打たれていった。
そして、最後の見送りは、立派だった伯父の葬儀にふさわしく、家元を中心に、お弟子さん、名取の優菜と名取達による、伯父が大好きだった民謡の唄を、三味線で奏でて見送るという異例で豪華な葬儀になった。
黒の装束に着替えた、メンバーが三味線を奏で、民謡を唄う。
明るい伯父には、一番だという、家元の案であった。
三味線の会の名前は『絆』だった。
家元をはじめ、絆のメンバーはみな、涙を堪える事が出来ずに泣きながら演奏をしていた。
伯父は、素敵な人々に囲まれて旅立って逝ったと、奈美は思い、涙した。

僧侶の読経に続いて、5分間の火葬場まで葬列が続く。
奈美にとっても、葬儀は初めての経験であった。
下を向いて涙した彼女に、不意に次女の育が話しかけてきた。
「ママ。おじいちゃんはどうなっちゃうの?」
すると、泣いていた奈美が育の方を向き、こういった。
「おじいちゃんは・・・これから焼かれるの。でもね、これは死ではなく旅立ちなんだよ。新しい魂をもらうね。」
「たましいってなあに?」
育がさらに聞く。
「とても尊いもの・・・。お金では買えないものなんだよ。」
と、奈美は言った。
それを聞いて、みんな泣いた。

火葬場までは長いような、短いようなそんな時間であった。
優菜の泣き叫ぶ声が聞こえる中、伯父の火葬は、しめやかに親族だけで執り行われた。
伯父は旅立った。
新しい命を・・・魂をいただくために・・・。
全ての生きる使命を終えた彼の、空に昇っていく煙を見ながら、奈美は思い、静かに泣いた・・・。

人は誰も、この世で使命を果たすために生きている・・・。
そしてそれが終わった時、人は静かに寿命が終わる。
それが、命をつなぐリレーなのだと、その時人は感じるのだ。
伯父の唄が6月の風に乗って、聞こえたような気がするのを、人々は聞いた・・・。

★第8話★魂上げ

奈美が寝ていると、夫の功が奈美の胸を弄ってきた。
途端に、くぐもった声を出す奈美。
「功。どうしたの?今日は?」
「今日はしたいんだ。いいだろう?」
そういいながら、功は奈美の乳房を揉みしだき、乳首を加えた。
「あ・・・・ん」
小さい声で耐える奈美。
功は、ハアハア言いながら、奈美の赤いパンティを脱がしにかかる。
今日の功は積極的だった。
こうなることを、奈美は夢を見ていた。
しかし・・・。
何かが、欠けたような気がした。
なんだろう・・・
功に抱かれながら、奈美は体では感じながらも、心はそばにいなかった。
それでも、奈美は功の熱いものを花弁に入れられた時は、失神してしまいそうなほど喘いだ。
そして、2人とも果てた・・・。
この時の奈美は、功の事を愛していると思い込んでいた。
もちろん、蓮のことも気にはなっていたが、ツインレイ・・・
いまいち、ピンとこなかったのが奈美の本音だった。

朝、果てた奈美のもとに、誰かがまた奈美を起こした。
『奈美。起きなさい。』
奈美はその声で目覚めた。
聞き覚えのあるその声は・・・。
「大日如来様・・・。」
『奈美。今日あなたは、功の実家に行って、
私の言う通りに動いてください。
功の家の呪われた骨を探して埋めるのです。
この骨がある限り、功の家の呪いは解けない。
急いで支度をして、子供たちを見送った後、
功の実家に行くのです。』
「呪い!?」
そういった後、奈美は大きな声を出して功を起こしてしまったかと、彼の方を見た。
功は、死んだように眠っていた。
大日如来が言う。
『大丈夫、時は止めてあります。功が起きることはありません。』
大日如来が話したことはこうだった。
功の実家のその骨が呪いの骨になっていて、実家は今空き家だが、その家もしくは土地に住んだものは、死んでいくという・・・
恐ろしい呪いがかかっているという。
それというのも、功の戦国時代の頃の武将の先祖が、その骨を削り、お茶に煎じて飲んだことでその呪いが始まったという。
呪いを止めるには、功の家の納屋にあるミイラ化した骨を埋め、奈美の力で魂をあげ、成仏させることしかないという。
「魂あげ!?そんなことできません!!」
『大丈夫。私が手助けします。さあ・・・功を起こすのです。でも、何があっても今日のことは功には言わないように・・・。』
その途端、ふっと我に返った奈美。
功は奈美の隣で幸せそうに寝ていた。
時計は、AM6:00を指していた。
奈美は、功の事を静かに起こした・・・。

それから、奈美は功と子供たちをそれぞれに送った後、車で2時間ほどかかる功の実家、
『八中村』へと向かった。
今日の奈美のファッションは、白いレースのついたカットソー。青いロングスカート。
そして、この間愛羅の導きで買った『銀のハイヒール』だった。
暑い日で、雨が降っていた。
車のワイパーを動かしながら、奈美は功の実家へと向かった。

八中村につくと、お寺が見えた。
雨はすっかり上がっていたが、まだ曇り空だった。
その寺にはアジサイが咲いているのに、なぜか白檀のいい香りがした。
赤い地蔵が五体並んでいた。
奈美は車を止めた。
そして車を降りると、功の実家で本当にそんな凄い事があったのか、寺の住職に聞いてみることにした。
白檀のいい香りが、一面に立ち込める中、奈美は寺の中に入り裏の玄関の呼び鈴を押した。
『ピンポーン』
中から出てきたのは、住職の奥方だった。
「どなた様ですか?」
「あの・・・私、立花奈美と申します。
その・・・住職さんにうちの話をお伺いしたくて・・・。」
「立花さん・・・!?あの廃墟の・・・!?」
「今?誰も住んでいないんですか?」
奥方は、驚いたように住職を慌てて呼んだ。
奥方の話を聞いた住職が中から出て来た。
「奈美さん!?あの功ちゃんの奥さん?これはこれは・・・遠くからよくこの村へお越しくださいました。さあ・・・上がってお茶でも飲んでいってください。」
奈美は、住職に促され家へと上がった。

大日如来と住職が仰ってる事は同じであった。
やはり、先祖はその盗んだ首を削り、お茶に混ぜて飲んでいたみたいだった。
それが体にいいと本気で信じていたからだそうだ。
住職は言う。
「功の坊ちゃんは言ってましたよ。いつか、この木の墓標の墓をまとめて、墓石で建てたいと。
しかし、それから何年も経っているのですが、立花家のものは絶えて、いまは功の坊ちゃんしかいなくなりました。」
そう話すと住職は、妻の出したお茶を
ずー・・・と飲み、それから言った。
「功の坊ちゃんのお母さんは産後の肥立ち
が悪くてね。功君とお姉さんの光代さんを残して、あの世へ行ってしまいました。それから光代さんもずっとこの家に住んでいたのですが、ある日心筋梗塞で・・・この世を去りました。
親戚というのもいなくてですね。
この八中村の近所でお金を出し合って、私に依頼してきました。それから功の坊ちゃんは、この八中村には一切来てなくて、立花家も廃墟と化しました。」
功に、そんな過去があったなんて・・・
知らなかった・・・。
奈美は思った。
「それで・・・もし、あそこの立花家のお墓が一つになるのでしたら、どのタイミングで貴方を呼べばいいんですか?」
住職は言う。
「みんな土葬ですからね。八中村の人々は。
だから火葬からしなければならないので、お金はかかると思います。もし火葬が決まったら私が赴きます。」
住職はそう仰って、奈美は納得をすると、功の家へと向かうために、寺を後にした。
奈美はこれで納得した。
彼女が立花家へ嫁に来た時に、それから程なく、立て続けに立花家の親戚が3人ほど亡くなったので、何かここはあるとは思っていた。
先祖が残した呪い・・・。
それを私がなんとか出来るのだろうか。
いつの間にか、白檀の香りは消えていた。
そんなことを考えていると、寺の傍にある、赤い地蔵に目が留まった。
奈美は、その地蔵に手を合わせた。
すると、その地蔵の頭にアマガエルが一匹止まっていた。
彼女は、5体の地蔵の一体の赤い毛糸の帽子がずれていたのを直し、
そのカエルをそっと手の上に乗せた。
小さなアマガエルは、奈美の手のひらでじっとしていた。それを、そばの紫のアジサイの葉に乗せて逃がしてあげた。
すると、
大日如来が奈美の耳に聞こえるように囁いた。
『行きますよ。』
奈美は、その言葉を聞き、車に乗って寺を後にした。

功の実家につくと、そこは広かったが廃墟だった。
車を降りようとすると、ドアの窓ガラスから誰もいないのに
『コンコン』
と、音がした。
ドキッとする奈美。
でもこれも功の家の祟りのせいかと思い、決死の覚悟で車を降りる。
途端に、足が勝手に納屋の方に向かった。
『この中ですよ・・・。』
それは、いかにも倒れそうな、木でできた薄暗い納屋であった。
茶色のドアは黒くカビが繁殖しており、歪んでいた。
いかにも、幽霊が出そうな納屋であった。
奈美は、その納屋のドアを開けようとするが、硬くて開かない。
仕方がないので、スカートのままで蹴って開けようとしたが、開く事はなかった。
おまけに、銀のハイヒールの踵の部分が刺さってしまうほど、納屋は木が脆くなっていた。
「ふう・・・。」
奈美は、汗だくになっていた。
大日如来が言う。
『奈美。その扉は開きません。仕方がありません。その骨の魂だけを持って墓に参りましょう。』
奈美は、言われた様にしようと思ったが、古い朽ちた竿に、古びた縄を見つけた。
そこには、小さなドラム缶があった。
不意に・・・何かがよぎった・・・。
奈美が、その縄で首を吊って死んでいる姿だった。
彼女は、フラーっとその方向に足を向かわせる。
『奈美!行ってはいけません!!』
手が・・・足が・・・
勝手に小さなドラム缶を朽ちた竿の下に置き、
その上に彼女は立った。
そして、縄に手をかけると・・・その縄はちぎれていた。
その縄には血がべっとりと付いていた。
彼女は匂いを嗅いだ。
血生臭い匂いがした。
『奈美!!幻覚です!やめなさい!』
大日如来の言葉に、はっとする奈美。
「やっ!・・・わたし・・・わたし・・・。」
『この家の霊がやっています。貴方には視えませんが、私にははっきりと見えます。奈美。携帯を出してメモ帳を開けなさい・・・。』
彼女は言われた通りにし、ピンクのスマホケースに収まった、携帯を取り出した。
そして、メモ帳を開いた。
そこには・・・奈美が見たこともない、日付が書いてあり、その横には立花家の親戚の名前が書かれてあった。
そして・・・最後の行には、奈美の名前が書かれてあり、青く光っていた。
「12月12日・・・。」
『この日に、貴方がここに来たら、貴方は確実に死ぬでしょう・・・。』
そうか・・・だから、納屋の骨の魂を埋めなきゃいけないんだ。
空気は淀んでいた。
そこからは、朽ちた汚部屋がはっきりと見えた。
奈美たちは、この汚部屋をなくし、この土地に住む予定になっていた。
あの、私が首を吊っている光景は、
並行世界のパラレルワールドだったんだ。
ーパラレルワールドー
今、ここに私はいなくて、
引っ越した後の自分・・・。
あの、仏壇屋で大日如来を見つけなかった自分が・・・。
それを見せられた。
『さあ、お墓に行きましょう。早くしないと日が暮れる。納屋の魂と、貴方が亡くなった別世界の魂も持っていきましょう。』
「はい・・・。」
魂を埋めないとまずいと思った。
「でも、スコップがありません。」
『隣に別の納屋があります。そこのトラクターにスコップが立てかけてあります。』
確かにあった。功の家は農家だった。
奈美はスコップを持ち、車に乗り込んだ。
雨上がりの道は舗装されてなく、ぬかるみに何度もタイヤを持っていかれそうになった。それでも、奈美は車を走らせた。この、呪いを解くために・・・。
それでも、どうにか墓の入り口についた。
奈美はゴクンと唾を飲み込んだ。
物凄く彼女は怖かった。ビビり屋の彼女は墓に行くのは嫌だった。
でもこの現象をどうにかして止めないと・・・。
その気持ちが奈美にはあった。
墓に通じる石の階段を、青いスカートをたくし上げて、駆け上る奈美。
本当は、納屋にある頭蓋骨を持って、
駆け上がるはずだった。
しかし見つからなかった為、
代わりに魂を2つ抱え、銀のハイヒールで2段飛ばしで駆け上がる。
だから、階段を上り切った時は全身泥マミレだった。
そして、そこに墓はあった。
木の墓標が8体・・・・。
そこは、空気が澄んでいた。
まるで奈美を待っていたかのように・・・。
6月の風が奈美の頬を吹き抜ける。
途端にそばにあった木の葉が風に舞った。
『そこに埋めてください』
大日如来が指定する。
木の傍に埋める場所を指定された奈美は、スコップで穴を掘った。
そして、彼女は持っていた魂をそっと、すーっ・・・と掌に乗せ、その穴の中に入れた。
途端に、青い魂と赤い魂がポーっと光った。
「蓮さん?」
そう。骨が削られていた魂は、戦国時代の時の蓮の魂だったのだ。
「だから、私は・・・無意識に後を追おうとして・・・この赤い魂は、死のうとしたんだ・・・。」
奈美の瞳から、つうー・・・と涙がこぼれた。
大日如来が言う。
『さあ・・・埋めましょう・・・。』
奈美は、手も爪も泥マミレだった。
しかし、最後の踏ん張りで、そっと土を魂にかけた。
すると、白い手が見えた。
大日如来が、重なる様に土をかけてくれたのだ。
一通り埋め終わると、
奈美はお線香が欲しくなった。
すると、大日如来がそっと、
人数分の紫色のお線香を用意してくれた。
奈美は、木の墓標の前にお線香を1本ずつ挿すと、先程魂を葬った墓にもお線香を2本刺し、掌を合わせた。
ー合掌ー
そして、ラピスラズリの数珠をかけ、全体の墓に聞こえる様に立ち上がり、般若心経を唱える。
すると、大日如来の白い手が視え、奈美の手と重なり広げ始めた。
大日如来は手を広げ続けた。
奈美は戸惑ったが、如来の言葉が聞こえた。
『そのまま、続けてください。』
奈美は、如来の言葉通り、渾身の力を込めて、経を唱え続けた。
すると!
墓中の魂が、バシュウ!という音とともに、
上へと昇っていく紫色の魂・・・。
奈美は目を見張った。
こんなことが現実にあるのか。
気が付けば、先程埋めた、赤と青の魂も、
くるくる重なりながら上へ上へと上昇していく・・・。
その時奈美は涙がこぼれた。
泣きながら、お経を唱えていた。
何故、涙が出るんだろう・・・。
その時、奈美の脳裏にある言葉が聞こえた。
『ありがとう・・・。』
大日如来の言葉ではない。
その言葉は、いくつもいくつも聞こえてくる。
ああ・・・だから泣くんだ。
みんなが喜んでいるのが分かる。
伝わる・・・。
『私たちはあなたの味方です。頑張って・・・』
声が聞こえた。
大日如来が仰った。
『あなたたちは・・・蓮と奈美は、いずれ世界のために・・・世界中のツインレイ達と一緒に働くことになるでしょう。それを忘れないで・・・どんなことがあっても蓮を信じてくださいね。』
奈美の手を、大日如来が胸の辺りに持っていき、親指を立てると、トントンと二回胸を叩かせた。
それは
ーグッドラックー
という如来様からのお言葉だった。
大日如来が微笑みながら、空へと帰っていく・・・
空はすっかり日暮れになり、夕焼けが見えた。
奈美は泥マミレの格好で、
満足しながら車に乗り込んだ。

しかし・・・
これから蓮と奈美に襲い掛かる試練は、耐え難いものになることをその時は知らなかった・・・。

★第9話★宇宙テスト

その日の夜。
奈美は真っ直ぐ家には帰らず、ある中学校の前に車を止めた。
ばたんと車のドアを閉めると、彼女は中学校の校門を開けた。
時計は、20:25分を指していた。
奈美は学校の中へと入ると、何を思ったか校庭に向かって歩いて行った。
時計はもうすぐ、20:30分を指そうとしていた。
『星の子中学校』と呼ばれるその学校は、
毎日20:30になると、
平原綾香の『ジュピター』のチャイムが流れる不思議な学校だった。
何故20:30になるのかよく分からないが、奈美はそれが宇宙人の仕業だと常日頃から思っていた。
もうすぐ、20:30になる・・・。
奈美は校庭のど真ん中に行くと、泥だらけの格好で、両手を上に掲げた。
そして言った。
「愛羅よ!大日如来よ!私に味方する総ての者たちよ!この地球を守るために、宇宙人と交信をさせたまえ!!」
その途端、ジュピターのチャイムが鳴り響き、奈美はそれと同時に般若心経を唱え始めた。
星が降るような夜であった。
奈美の、手を上に挙げて、経を唱える奇妙な行動は、しばらく続いた。
それを、通りがかった近所の主婦が見ていた。
何をしているんだろう・・・あれは!?
よくみると、近所に住んでいる立花さんの奥さんではないか。
なんだってこんな時間に、立花さんの奥さんがいるのか分からないが、とにかく旦那さんに電話をしないと、人が集まって来て大事になる。
彼女は、そう思うと携帯を取り出し、立花家に電話をした・・・。

奈美がひたすら、般若心経を唱えていると、
がっ!と腕を掴む者がいた。
反射的にそのつかんだ手を見る奈美。
それは、夫の功であった。
「何をしているんだ!奈美!」
功が言う。
「何をしているかって?UFOを呼んでいるのよ!」
「UFO!?なんでまた!?」
「私は選ばれた人間なの。いたこの真似もできるし。魂上げだって出来るし!だからUFOを呼んで、宇宙人とコンタクトを取るの。この地球を守ってって・・・。」
功には奈美が何を言っているのか、訳が分からなかった。
何か・・・奈美にとんでもないことが起きている・・・?
それだけは分かった。
精神の病気?
だとしたらなんで?
「とにかく奈美、ここにいたら風邪をひいてしまう。全身泥だらけじゃないか!何があったか知らないが、とにかく帰るんだ!」
「いやっ!私はUFOを呼ぶの!!」
それに功は、奈美の顔に平手打ちをした。
『パシッ!!』
そして言った。
「奈美!正気に戻れ!お前はこんなではなかっただろう!?」
キョトンとする奈美。しかし功はお構いなしに、奈美を連れて家へと向かった。

「出せ!」
「え!?」
「お前は、常次 蓮と付き合い始めてから変わった。蓮のラインを出せ!これは命令だ!」
「私が変わった?どこも変わってないわよ。私は宇宙と交信ができるのよ。神と交信ができるのよ!」
「いい加減にしろ!!」
功が怒鳴る。
そして奈美のピンクのバックから携帯をひったくると、暗証番号を打ち始めた。
「功!何で私の暗証番号を知ってるの!?」
「普段からお前の事はずっと見てる。暗証番号なんて、夫だから分かるのさ。」
功は時々、私の携帯の中身を見ていたのではないか?
奈美は察知した。
慌てて携帯をもぎ取ろうとする奈美。
しかし、男の力には勝てない。
功に携帯を見られ、動揺する奈美。
功は携帯の中身を見ると、ラインを開き、そこから『常次 蓮』を探した。
「やめてよ!功!」
「うるさい!それとも奈美。電話されたくない理由でもあるのか?」
ぐっ・・・・となる奈美。それは・・・。
功は、ラインから『常次 蓮』の名前を見つけた。
彼は蓮のページを開くと、奈美の承諾も得ず、蓮に電話をし始めた。
「何するの!?功!?」
「うるさい!こいつと関わってから、お前におかしなことばかりが続く。こいつに問いただしてやる!」
ラインの通話音が響く。
5回ぐらいなった頃か?蓮が通話に出た。
「奈美さん?」
しかし、出たのは功だった。
彼はラインの音をスピーカーにすると、蓮に話し始めた。
「奈美の夫の立花 功と言います。」
功が言う。
「これは…はじめまして。常次 蓮と申します。」
蓮が言った。
「蓮さん。貴方と奈美が出会った時から、おかしなことばかりが続く。先程奈美は、中学校の校庭のど真ん中で、手を上にあげて、UFOを呼んでいた。地球を守るのだと。一体どういうことですか?奈美に何かしたんですか?」
「UFOを呼んでいた?」
蓮が驚いたように言う。
「そんな筈はありません。奈美さんにそんな能力がある筈がない。」
「そんなことない!私、宇宙交信だって出来るし、神様だって呼べる!」
奈美が反抗するように言う。
「奈美、いい加減にしろ!」
功が怒鳴る。
「そうですよ奈美さん。並の人間が、神様や宇宙交信ができる筈がない。私だって出来ないのに。」
「蓮さんまで、そんなこと言うの?蓮さんだけは信じてくれると思ったのに…。」
涙が出てくる奈美。
功と蓮は、ため息をついた。
「それでは奈美さん。宇宙テストをしましょう。」
「宇宙テスト?」
「貴方が本当に宇宙と更新が出来るなら、何かが視えるはずです。でも何も見えなかったら、あなたの錯覚という事になる。功さんもそれでいいですね。」
「はい…。」
功が、訝しげに答える。
「では、奈美さん。行きます。」

蓮が奈美に指示をした。
「目を閉じて…。目の前に鳥居がある。潜って下さい。その鳥居は何個もある。全部潜って下さい。少し歩くとマルタの階段がある。1段1段登って行ってください。登りましたか?右側に龍神様がいらっしゃいます。左側に蛇の形をした木があります。目の前の神社の扉は開いてますか?開いていたら、そこの畳の部屋に靴を脱いで上がって下さい。真ん中に女性の方が座っています。」
その後、蓮の声が老婆の声に変わった。
「よく来ましたね。あの子が私に会わせるなんて、初めてなんや。あの子から話は聞いているんよ。奈美さんでしょ?私は霊媒師の曽我と言いますわ。これから先、あの子を守ってあげてや。そして信じてあげてね。」
曽我さんは続けた。
「あなたは、今まで占い師をやっていて霊が視えないのに、視えるって言った事があった?それは止めような。とても危険だからな。」
図星だった。
奈美は以前から視えないものを視えると言っていた。
「私はね大阪に住んでいるんやけど、若い時に中国や、韓国で霊媒師をやっていた事があるんよ。でも、その当時は霊媒師という職業は忌み嫌われてね、私は豚小屋に入れられた事もあったんや。今こそ認められているけど、それ程、
霊媒師は大変な仕事なんや。」
そして、彼女は行った。
「これからも子供達を大切にするんよ。蓮のこともよろしくな。仲良くな…。」
一瞬間があり、彼女の声も蓮の声も聞こえなくなった。
沈黙が流れた。
奈美は堪らなくなり、目を開けると蓮に向かって話し始めた。
「あれ?蓮さん?蓮さーん!もしもーし…
聞こえる?」
と、奈美は蓮に声をかけた。
すると、蓮が携帯の向こう側で、
「あ…あれ?」
と、呂律の回らない口調で話し始めた。
「あ…れ…ぼ…く…何してましたっけ?」
「えっ…宇宙テストやっていたじゃないですか?」
奈美が笑う。
「あのおばあさんは誰ですか?」
奈美が話す。
「蓮さん。おばあさんのフリをしていたのですか?」
と、奈美が笑いながら言った。
「おばあさん??もしかして…奈美さん。曽我のおばあさんに会ったんですか?!」
蓮が驚く。
「僕の精神世界のなかで、曽我のおばあさんに会ったのは、貴女が初めてですよ。
奈美さん。僕の尊敬している霊能者です。
…あなた、本当に宇宙と繋がっていたんですね…。これは失礼しました。奈美さん。合格です。貴女は確かに宇宙と繋がっています。」
更に蓮がいう。
「先程、私も貴方の前世を視ていたのですが、あなたの前世は武士でしたね。どこかの戦場で血だらけで刀を持っていて、1人立っている男の武士でした。1人生き残る力があったからこそ、宇宙も貴方を選んだんですね。これは宿命ですね。貴方の使命です。」
奈美はとても嬉しかった。
やっぱり赤い魂は青より強いと、天狗の心になった馬鹿な考えをしていた。
蓮に勝った。ざまあみろ!
「蓮さん。今すぐ私に謝って下さいよ。」
と奈美は上から目線で言った。
「分かりました。謝ります。ごめんなさい。」
蓮は素直に言った。
「分かって下さればいいんです。」
奈美が誇らしげに言う。
しかし、功は面白くなかった。
はらわたが煮えくり返りそうになっていた。
現実主義者…
功は、そういう人間だった。
「旦那様」
夫の功に蓮が言う。
「奈美さんを暖かく見守ってあげてください。彼女は間違いなく宇宙と交信してる。彼女が好きなら、彼女のそのままを愛してあげて下さい。」
そして、最後に奈美にこう言った。
「奈美さん。私は何時でもあなたの味方です。」
そう言って蓮は電話を切った。
しかし、功はしばらく黙っていた。
「じゃあ、功。私お風呂入っちゃうね。」
奈美が携帯を持って風呂に入ろうと、部屋を出ようとした時だった。
「宇宙テストだと…?」
功の顔が変わる。鬼のように。
「ふざけやがって!」
功はそう言うと、リビングの壁を思いっきり殴った!
途端に白い壁に穴が空いた。
奈美は沈黙した。
功は、奈美の携帯を奪った。
「何するの?!」
「お前はやっぱり頭がおかしい!!精神病院に送り込んでやる」
「何…言ってるの?」
私はあなたの家の霊を除霊に行ったのに…。
皆楽しそうに、天に昇っていったのに…。
「功!待って!私の話を聞いて!説明させて!」
「うるさい!まともになるまで帰ってくるなっ!」
功は、悔しかったのだ。
奈美と蓮が恋人の様に仲が良かったのを。
俺には見せない、奈美の笑顔が憎らしかった。
だから、奈美を薬漬けにしようとしたのだ。
精神病院に入れれば、蓮とは連絡出来ない。
「功!もう、スピリチュアルな事は、あなたの前では言わないから!精神病院だけは勘弁して!」
「うるさい!今日中に荷物をまとめろ!出なきゃお前を追い出してやる!」
そう言い残すと、リビングの扉をばたん!と閉めてしまった。
どうしよう…明日には精神病院に送り込まれてしまう。
私、薬飲んだら…どうなっちゃうんだろう…。
そうだ、携帯で蓮に連絡!
とりあえず蓮の所に逃げれば…。
なかった…。
そうだった…夫の功が、携帯を取り上げてしまった…。
大日如来様。愛羅。今こそ助けて!私を導いて下さい…。
そう願ったが、叶わなかった。
何で肝心な時には出て来てくれないの?!
バカー!
奈美の眼から涙がこぼれた。
しかし、泣いている場合ではない。
奈美は仕方なく、体の汚れを落とすため、風呂に向かった。

ここから、奈美と蓮のサイレント期間が始まる…。

第10話 ★サイレント期間★

翌日。
功と奈美は、『永遠の0』のロケ地になった精神病院に行った。
奈美は辛かった。
私は病気じゃないっ!
しかし、現実主義者の功には、その言葉はまったく聞き入れて貰えなかった。
この時、奈美は何故かあのショッピングモールで買った『ウルトラマン』のTシャツを着ていた。
功には、ドラえもんのTシャツ。
なぜ、それを着て来たかは分からない。
しかし、2人とも少しでも楽しみたかった気持ちがあったのかもしれない、それ程受け入れ難い現実だったからだ。
功は、今日奈美が確実に入院する事が分かっていた。
だから、奈美に荷物を持って来させ、それは車に置いてあった。
奈美は薬を貰って帰れるかもしれない…。
その時はそう思っていた。
子供達の顔が奈美の顔をちらつく…。
ここに来る前の事だった。

「ママ…行っちゃうの…?」
次女の育と祥の幼い子供達の声が、頭の中を駆け巡った。
「ママはすぐ帰って来るよね。仕事に行くだけだから。ね?ママ。」
長女の絵麻が、起点を利かせて2人を説得させた。
私の宝物たちに悲しい思いをさせてしまった。

奈美が感慨に浸っていると、功の声が聞こえた。
「行くぞ。」
奈美は渋々、功の後に着いて行った。

その後、奈美は診察の時に、
医師にロボットの様に早口で、考えられない程のスピードで頭が回りすべてを語った。
診断名は
ー統合失調症ー
境界線は難しかった。
何故か、統合失調症を患う人の症状は、神だの宇宙だのという人も少なくはない。

3人の医師、4人の看護師に囲まれ、MRIをやることになったが、奈美は頑なに拒否した。
彼女は小さい時から、MRIは大っ嫌いだった。
自分が小さい頃、
知らない間に宇宙人に頭の中に埋め込まれた小さなチップが、見つかってしまうのを恐れていたのだ。
もちろん。気のせいだが。
「いやっ!実験台にされる!怖い!!」
看護師と医師から奈美は病院中を逃げ回り、結局MRIは出来なかった。

奈美が充てがわれた部屋は、二重ロックのかかった、ひんやりとした部屋だった。
部屋には、銀色のトイレと質素な布団があった。
小さな窓から見えるのは、
緑の木と青い空だけだった。
携帯もペンも紙も禁止。
奈美は悲しかった。
功は荷物を置いて、後ろ髪を引かれるような様子だったが、何も言わずに帰ってしまった。
彼女は、部屋の隅で体育座りになり、
泣いていた。
すると…何故かラベンダーの香りがした。
「ラベンダー?」
奈美は小さな窓から周りを見回した。
鉄格子が張り巡らされてる、その小さな窓からは、ラベンダーなどは咲いてなかった。
気のせいか?
何故ラベンダーの香りがするのだろう?
閉所恐怖症の彼女だったが、何故か怖さは奈美にはなく、只々、子供たちの事が心配だった。
お母さんに預けて来たから、多分大丈夫だと思うが、何故こんな事になってしまったのだろう…。
そうしてる内に、看護師が紙コップに水を持ってきた。
『ガチャガチャ』
『キィー…』
扉が開き、看護師が入ってくる。
「この薬を飲んでください。」
手渡されたのは、白い薬1粒。
奈美は飲みたくなかったが、我慢して飲んだ。
何故なら、飲まないと看護師はそこを去ってくれなかったからだ。
〝蓮。私を助けて…!!〟
夕食迄、奈美はずっと体育座りで泣いていた。

『カチャッ』
『パタン』
小さな扉から置かれたのは、夕食だった。
奈美は一瞬そちらを見たが、
又、扉は塞がれてしまった。
すると、大日如来が現れた。
『食べなさい。奈美。』
「欲しくない。」
奈美が話す。
『だめです。食べなさい…。ここを出て子供たちの所に帰りたいんでしょう?だったらしっかり食べて鋭気を養いなさい。』
奈美は渋々ながら、大日如来の言う通りにした。
彼女は、まず水を1口飲んだ。
とても美味しかった…。
なんでこんなに美味しいの…?ただの水なのに…。
『水は万物の根源。人にとって生物にとって生命の糧なのです。』
「生命の糧?」
奈美が、夕食を食べながら言う。
『そうです。今貴方が食しているものも、全て貴方の犠牲になったもの。貴方はその犠牲の中で生きている。それはあの愛羅が教えてくれたでしょう?お米1粒も残してはなりません。感謝して食べるのです。犠牲になったもの。その犠牲になったものを料理してくれたものを忘れてはなりません。』
奈美は食べながら、涙が溢れて来た。
私は今まで何の気なしに食べ物を食べてきた。
こんな犠牲があり、生かされて生きて来たのだ。
奈美は、米1粒も残さず食べた。
食事を提げに来たおばさんにも、
「ありがとう!」と言葉が出て来た。
ー感謝ー
大切なこと。
何故かここにいる事が楽しくなってきた。

夜。
奈美は退屈だったので月を見上げた。
満月が美しく輝いていた。
何故か、蓮が笑っている顔のように視えた。
奈美は寂しくなかった。
〝蓮さん…捕まっちゃったよ私...〟
『奈美さん…。』
月から、蓮の声が聞こえた。
『奈美さん。大丈夫ですよ。僕が隣で寝てあげますから。魂で一緒に寝ましょう。目を瞑って…僕の顔。声。温もりを思い出して下さい。』
奈美は目を瞑った。
蓮の面影が見えた。
〝ああ…私は蓮を欲しているな…〟
そう思った。
『ゆっくり休んで下さいね。僕がお守り致します。』
蓮の声が聞こえた。
奈美は、硬い床に敷かれた布団に横になった。
先程のラベンダーの香りは、大日如来様が下さったのか。
だとしたら…?
「大日如来様。バラの香りが欲しい」
奈美は小声で言った。
途端にバラの香りが広がる。
凄い!とても心地よかった。
何でも出来る様な気がして、奈美は更に遊んだ。
奈美は、昔飼っていた愛犬を呼んだ。
雄のブラックのラブラドールレトリバー。
独身時代。恋人の様にずっと支えてくれた。
悲しみも苦しみも一緒に乗り越え、
毎日、抱いて寝ていた。
最期は病気になってしまい、
入院などはさせずに、死に際までそばにいた。
入院なんて、彼は望んでいないことを彼女は察知していたからだ。
「レオン…寂しいよ…。」
その時奈美は名前にハッとした。蓮!
簡単な言葉遊びだが、
レンにオをつけたらレオン。
〝レオン、アナタが蓮と縁を繋いでくれたの?〟
涙が止まらなかった。
『わん…わんわんわんわん…』
〝アイシテルヨ ありがとう また会おうね〟
レオンが、そんな風に言っているのが聞こえた。
涙が押し寄せてきた。
『さあ…もう寝ましょう。奈美さん。私が腕枕をして差し上げます。大丈夫。大丈夫。全て上手くいきます。』
奈美はいつの間にか、眠っていた。
夢なのか、現実なのか分からなかった。

そして夜明け前
身体がふわっ!と上がる感覚で目が覚めた。
重力を感じた。
初めての感覚だった。
大日如来が現われた。
『色々な人々がいます。観て感じて下さい。』
すると、隣から声が聞こえた。
「私は、病気なんかじゃない…必ず抜け出さなくては…。」
独り言をずっと言っている方がいた。
鎖に縛られ、トイレにも行けない状態の方だった。
昼のご飯の時間になると、
奈美は部屋から出る事が出来た。
色々な人々がいた。
壁に頭を打ち突けている方。
動きが鈍く、生気なく歩いている方。
かと思えば、忙しく動いている方。
変わり果てた人間の姿。
何があったのか…。
テーブルに着き、ご飯を皆で食した。
黙々と食べている人達。時々私の方を見ている。
衝撃的だった。
奈美は部屋に戻ると、
カッチーニの『Ave Maria』を寝そべって歌った。

それから1週間が経ち、
二重ロックの部屋から解放されて、鍵がひとつの部屋に移動した。
ただ1つ問題があった。
簡易トイレになっていたのだ。
奈美は排尿を我慢した。
看護師を呼んで、トイレに行く日々が続いた。
前と違って自由な時間も設けてくれた。
奈美は自由な時間を、精神疾患を持った仲間たちと、おやつを食べたり、漫画を読んだり、TVを観たりして過ごした。
そして夜になると、功が持ってきたノートとボールペンで、ひたすら日記を書いていた。
蓮と出逢ってからの出来事を。
奈美は蓮に逢いたくなった。
逢いたくて逢いたくて仕方がなかった。
彼を思い、奈美は1人Hをした。
カメラが回っていたらどうしようかと思いながらも、観られる快感が少しあった。
〝蓮!蓮!あなたの声、あなたの温もり、あなたの瞳…何もかもが欲しい〟
そんな事を思いながら、一生懸命クリトリスを触る。
「は…ぁ…あぁーっ!!」
奈美は布団の中で思いっきり果てた。

次の日の朝
その日はレクリエーションの日だった。
奈美は真っ先に黒く光っているピアノに向かった。
そして、XJAPANの『Forever Love』を弾いた。
ー永遠ー
蓮を想って…。
周りは一斉に注目した。
〝蓮。貴方に逢いたい…〟
奈美の瞳から1粒の涙が溢れた。

★第11話★サイレント期間2

功は考えていた。
何とかして蓮と奈美を別れされる方法はないものかと。
蓮と会うまでは、奈美は単なる占い師だった。
ところが、最近は何故だか、口寄せだの、魂上げだの、宇宙だのと夢みたいなことを言う様になった。
何がこうさせた?
功は、本気で奈美の事が心配だった。
〝今までは自分が一番愛されていたのに、
なぜ今は・・・〟
奈美の気持ちが離れている事に気付いていた。

奈美の携帯を前にしながら、功が呟く。
すると、電話が鳴った。
奈美の携帯が鳴ったのだ。
功は、恐る恐る携帯を見たが、
そこには『佳代子さん』と入っていた。
ピッと携帯を取る功。
「奈美?」
「あ、こんばんは、奈美の夫の功と申します。」
「あ・・・奈美は?」
「実は・・・」
功は奈美が精神病院に入院している事を、
佳代子に伝えた。
すると佳代子はこう言った。
「そうですか・・・。前々から蓮さんとは付き合うなとは言っていたのですけれどねえ。おかしなことが起こり始めたのも蓮さんと付き合い始めたからなんですよ。」
「あなたもそう思いますか?」
「思います。」
佳代子はしれっと言った。
「そこで私に提案があります。」
「どんな?」
「蓮さんと奈美さんを縁切りさせてしまうんです。そのぐらいの力は私にはあります。」
「縁切り!?」
「はい・・・。あとはあなたの思う通りにすれば・・・。」
佳代子の不気味な声が功の耳に響いた。
だが功は躊躇った。
「しかし。縁切りとは・・・。そんなことをして、奈美がおかしくはならないんですか?」
「大丈夫ですよ。縁が切れるのは奈美さんと蓮さんだけですから。それとも...あの2人はツインレイ。縁切りしなければどんどん2人とも惹かれ合って、あなたと別れる結果になると思いますよ。」
「ツインレイ?」
「この世でたった1人の相手、幾世紀も生まれ変わって出会った誠の相手のことを言います。」
それでは・・・俺は何なんだ?もし蓮がその相手だとしたら、俺は一体どうなってしまうんだ!?
子供も奈美も蓮に取られてしまうのか?
現実主義の功も、これには焦りが出た。
子供や奈美は、絶対に取られたくない!!しかもあんな霊媒師風情に!!
奈美の相手はこの俺だ。
功に、煮えたぎる様な怒りが湧いて来た。
「分かりました。佳代子さん、お願いします。」
「畏まりました。」
佳代子が言う。
「でもどうやって、縁切りさせるんですか?」
「縁切りさせる呪術があります。夜の丑三つ時にやります。功さん、貴方も付き添ってください。」
縁切りの呪術は翌日の丑三つ時にすることになった。
2人の名前を人型の半紙に書くと、真っ白い蝋燭を2本立てた。
粗塩をたっぷり入れた白い器に20本の黒い線香を交差させ、訳の分からない言葉の護符が置かれていた。
功は不気味な光景に、ちょっと脚がすくんだが、これで蓮と奈美が縁が切れるならばと思い、
内心嬉しかった。
佳代子が、縁切りの呪文を唱える。
すると・・・。
蝋燭の火は、たちまち、
赤と青の炎が激しく揺れだした。
蝋燭の残った形は龍の形になっていた。
功は怖かった。
こんな世界があるのだと。
自分は何かとんでもないことに足を踏み入れてしまったのではないか?
そうも思ったが、これで蓮と奈美が縁が切れるのならばと思い、
彼は冷たい眼で燃え切った蝋燭を眺めていた。
それから数日後。
病院のレクリエーションで、奈美は蓮の為にキーホルダーを作った。
星型の革細工を銀色に染め、そこにハートに矢が刺さったメタルスタンプで十字を刻んだ。
ーREN♡AILAー
と後ろに刻み、出来た!と思ったところで
功が来た。
「元気かい奈美。」
「あ・・・うん、元気よ。」
奈美は慌てて、そのキーホルダーを隠した。
功が話す。
「そのキーホルダーは、俺の?」
奈美が目を功からそらす。
〝蓮のか・・・〟
一瞬、功に怒りが湧いたが、功は精神力で持ち堪えた。
「奈美、話がある・・・。」
功は改まって言う。
奈美は一瞬戸惑ったが、功の後を渋々着いて行った。
奈美と功は、人気のない所へ、、
そして、向かい合って座った。
「何話って?」
奈美が聞く。
「実は・・・お前がいない間に蓮と奈美の縁切をした。佳代子さんに頼んでな。」
「縁切り?」
奈美が驚いた様に言う。
「それを蓮さんに話したら、こういうラインが返ってきた。」
功は奈美のピンクの携帯を渡した。
「私の携帯を・・・なんで勝手に・・・!?」
「とにかく読んてみろ!」
功は厳しかった。
奈美は、恐る恐る携帯を見た。
蓮のラインのページを見ると・・・
功がこんな事を打っていた。

『お疲れ様です奈美の夫です。精神に異常を感じたので、前回のやり取りの後に入院させました。まだ完全ではないものの、徐々に回復に向かっています。入院後は面会もできず、一昨日初めて会うことが出来ました。その際に携帯を触らせたのですが、やはり霊的な事を調べようとします。
精神病と霊障は紙一重だと思っていますが、子供の将来や母親としての務め、家族として機能しなくなってしまっては大事ですので、ストレスや不安をさけて日常を送らせる事と、過去に関わった霊媒師の方々とは、関わらない方向でと考えています。今回申し訳ありませんがあなたとの縁切りもさせて頂きましたのでご了承下さい。
何が原因なのか分からない以上、夫として最大限のことはやらせて頂こうと思っていますし、それが自分の務めだと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
現在奈美は、治療に専念していますので、どうかご心配なさらないで下さい。
ありがどうございました。』
ラインには、その様に書かれていた。
奈美は、震えていた。
思わず携帯を落としそうになったので、
功が携帯を取った。
「功・・・何で・・・ひどい・・・。」
奈美は泣いた。
「奈美・・・。あんな男のことは忘れるんだ。現に蓮さんも了承している。この下を見て・・・」
そこには
『今奈美さんに必要なのは僕じゃないですね。
了承しました。』
と書かれていた。
「うそ・・・。蓮さんがこんな事書くわけない・・・。」
奈美は嗚咽した。
それを功は説得する。
「奈美この程度の男だったんだよ。彼は、俺が一番大事な存在だって事を奈美に教えたかったんだよ。いい加減目を覚ませ。お前は俺の妻であり子供たちの母親だ。そこをしっかり自覚して、治療に専念してくれ。」
そう言うと功は、奈美の肩をポンポンと叩き部屋を後にした。
後に残された奈美は、只々、茫然自失であった。そして、服のポケットに忍ばせておいた蓮に渡すはずだったキーホルダーを見つめた。
そのキーホルダーは先程とは違って、涙で滲んで見えた。
奈美は立ち上がると部屋に戻り、
そして、大泣きした。
一人ぼっちで泣いていたが、ふと考えた。
そうだ、私達はツインレイ、何者にも邪魔されない。
幾年、幾世紀経てやっと知り合った2人。
そんな絆の深い2人に、縁切りなんて通用するもんか。
奈美はそう思うと、バッグの中に忍ばせていた般若心経を詠み始めた。
そして、その般若心経のお経本を開き、
〝ここを出たら蓮と逢う〟
と、指で経本の文字をなぞった。
それから奈美は功が届けてくれた、
オレンジ色のiPodを聴いた。
そこには何故か魅了される曲があった。
三浦春馬の『Fighting for your hearts』
聴いていると、闘志が湧いてくる歌だった。

♪傷ついた心のまま 抱きしめたい
許し合える2人は 世界を変えるから
君のすべてを受け入れよう♪

世界を変える。大日如来様が仰っていた。
私と蓮が世界の為に働くことになるだろうと。
それは一体何?
宿命があるなら賭けてみたい。
もう戻れないから。
踏み出すよ。この場所から。
私をあなたの傍に行かせて。
ずっと、一人であなたを探してる。
真夏の暑さを感じる、病院内の木漏れ日が零れる木陰から空を見て聴いていた。
ツインレイを意識させる歌だった。

世界中のみんなが愛し合い、音楽の溢れる、
歌って踊れる世界を創れたらいいな。
戦争も病も、お金にも困らない世界。
この世の人々が笑って過ごせる世界。

〝私のこの手で何が出来るかな・・・〟

病気なんかじゃない。
強力な薬を飲んでも、全く効かない。
奈美は突然、子供達に会いたくなった。
病院の公衆電話に向かい、
電話を頻繁にする日々が続いた。
奈美は、自分をとても情けなく感じた。
母として守らなければならない子供達。
小さな私の分身達。
「元気?」「待っててね?」
それしか言う事が出来なかった。
功も電話に出て、
その日あった事を色々と教えてくれた。
功の優しさを感じた。
功と私の母とで、しっかり家をサポートしてくれていた。
その優しさが嬉しかった。
いっその事、功に戻ってしまえば・・・
だって蓮は私にさよならの様なラインを送ったから。
功からの手紙は何通にも渡って奈美の元へと届いた。
そこには、
彼なりの奈美に対する愛情が綴ってあった。
そして両親、姉も私のことを心配して手紙を綴ってくれた。
大日如来様は仰った。
『家族を大切に、感謝を忘れずに・・・。』
長年寄り添い支えてくれる功。
出逢ってしまった愛する蓮。
彼女は2人の狭間に立たされ、葛藤をしていた。
これからどうしよう・・・。
大丈夫、何とかなる・
そう言い聞かせた。
そう思う事しか出来なかった。
功と電話をしていると不思議な事が起きた。
決まって宇宙の話をする時・・・。
『ピーピピ・・・ピピピピ・・・ピー。』
声が出なくなった。
またお互いの電話の音が聞こえなくなった。
奈美は察知した。今宇宙の話をしてはいけない。
この時、奈美は何故そうなるかは分からなかった。
しかし、功の前でこの話をしてはいけない。
それだけは分かった。

そして・・・ある夜。
奈美はとてもリアルな夢を見た。
真っ赤な赤い月の夜。
砂漠の真ん中に奈美がいた。
砂漠以外何もない。誰もいない。
喉はカラカラに乾いていた。
すると、向こうからラクダに乗った蓮が現れた。
彼は裸だった。
奈美もいつの間にか裸になっていた。
蓮は奈美に口移しで水を含ませると、
奈美を抱き、砂漠に押し倒した。
そして蓮は、奈美の耳、耳たぶ、乳首を含み、
段々と奈美の下に向かって、舌を這わせていった。
それから奈美をM字開脚にすると、
奈美の溢れる蜜を吸い尽くす様に舐め回した。
奈美はあらん限りの声を出した。
幸せだった。砂漠なのに・・・。
それから蓮は、奈美を四つん這いにすると、
後ろから、熱い大きな突起物を奈美のヴァギナに挿し、思いっきり腰を動かした。
呻き声を出す奈美。
〝あぁ・・・〟
でも自分はこうなる事を望んでいた。
蓮は奈美の乳房をゆっくりと揉みしだき、
その度に、砂漠の真ん中で喘ぐ奈美。
〝ああ!あなたがいればいい。
ツインレイなんて関係ない。
あなたが何者でもいい!
こうして2人1つになれて、私は・・・
初めて女になる。
私とあなた溶け合って一緒になる・・・
星になる・・・!!〟
奈美の中で、赤い月の隣に蒼い星を見た。
それは小さい頃『カギ・・・』と言っていた星に似ていた。
〝蓮愛してる!
あなたがいれば、私は何もいらない・・・!!〟
奈美は蓮の硬いものに動かされ、
ついにオーガズムに達した。
〝れんっ!!〟

その時、目が覚めた。
朝の光が心地よく、窓際に差し込んでいた。
奈美は喉がカラカラだった。
水に手を伸ばし、ペットボトルを思いっきり飲み干した。
膝はガクガクで、汗だく。
ヴァギナがヒクヒクしていた。
夢の中のSEXは最高であった。
彼女は夢をもう一度思い出していた。
そう・・・私の心はもう決まっていた。
功との穏やかな生活よりも、蓮との愛を。
全ては答えが出ていた。
出ていたのだ・・・。

奈美は蓮に逢いたかった。
逢いたくて仕方がなかった。
だから機会を待った。
ここを脱走して蓮に逢いに行こう。
一回だけ行った蓮の事務所。
このお金で行けるだろうか・・・。
行きたい!蓮の元へ。
彼女の心は、風のように思いは蓮へと向かっていた。

そしてついに決行日。
1ヶ月に一回。
散歩をさせてくれる日がある。
この日は、功も仕事で忙しく誰も来なかった。
時間は20分間。
又、捕まったら、ひどい部屋に入れられる。
でもそれでもいい、あなたに逢えるなら。
奈美は覚悟を決めていた。
そして、なるべく散歩に見せかけて出て行ける洋服を選んだ。
奈美は、ジーンズにピンクの真ん中に茶色の木の飾りボタンが付いている、半袖のTシャツを選んだ。
散歩なので、もちろん白のスニーカー。
小さな白いバッグに、財布と口紅、そして薬に経本、蓮にあげるキーホルダーを中にしまって、
10:00になるのを待った。
時間が経つのがとても遅く感じた。
私は今、とんでもないことをしようとしている。
功...ごめんなさい。
お父さん、お母さん、お姉ちゃん、
そして何よりも3人の子供達。ごめんなさい。
私は今日・・・女になる。

10:00になった。
彼女は、何食わぬ顔で外出届に〝散歩〟と書き、自分の名前を書いた。
そして、看護師の「いってらっしゃい」という声と共に、二重扉の外へと2ヶ月ぶりに出た。
窓から差し込む光は真夏だった。
奈美はゆっくりと、歩き始めた。
やっとここから出られたのだ。
思えば長い道のりだったが、色々な事があった。
20分。その間に早く駅に行って電車に乗らなければ!
奈美は走り出した。病院内を抜けて、
外へ外へと。
正面玄関を出て門の外へ・・・。
出た!!
ついに奈美は外へと出られたのだ。
奈美はそのまま駅へと向かった。
それから電車に乗った。
久しぶりの電車の中は誰もがスマホを見ていた。奈美の事を見ているものはいなかった。
しばらくすると雨が降ってきた。
奈美は、折り畳み傘を持って来るのを忘れた事に気が付いた。
雨はかなり降ってきた。
車両の窓を叩きつける程に。
駅で傘を買いたかったが、お金が足りなかった。
〝今頃、病院では大変な事になっているだろうな・・・〟
そう思うと不安になったが、一度覚悟を決めた事だった。
彼女は電車を乗り継ぎ、蓮が住んでいる街へと着いた。
外に出ると、大雨だった。
彼女は何度も諳んじてなぞった、蓮の電話番号を緑の公衆電話からかけた。
30円を入れて受話器を握る。
震える手で・・・。

蓮は心配していた。
奈美の携帯から、ライン電話で功から奈美がいなくなったと電話があったからだ。
〝来たら電話して欲しい〟と言われ、
気が気ではなかった。
〝奈美さん、どこへ行ってしまったのだろう・・・〟
仕事をしている間も、蓮は心配でならなかった。
蓮が眼鏡をかけてパソコンを打っていると・・・携帯が鳴った。
「はい、れんれんです・・・。」
蓮が電話に出ると・・・
「・・・蓮さん・・・?」
震える様な声が聞こえた。
「・・・奈美・・・さん・・・?」
「よかった・・・やっと・・・やっとあなたの声が聞こえた・・・。私・・・私・・・病院を抜け出して・・・。」
「奈美さん!今どこにいるんですか!?」
「あなたの街の駅よ・・・。」
「えっ!?」
蓮の声が変わる。そして言った。
「奈美さん!そこから動かないでくださいね!今迎えに行きますから。」
蓮はそう言うと、電話を切った。
しかし、奈美は一刻も早く蓮に逢いたかった。
外は殴る様な大雨になっていた。
〝蓮さん!いえ蓮!もうすぐ会える!!〟
奈美は傘も差さずに、駅を飛び出した。

蓮は傘を差しながら、奈美用の傘を握り、大雨の中、事務所を飛び出した。
奈美は、大雨の中走った。
二人とも走って走って・・・!!
そして、横断歩道の向こう側に奈美は蓮を見つけた。
彼は仕事用の陰陽師の恰好のまま、
顔には眼鏡をかけていた。
だから一瞬のうちには
分からない程だったが、奈美にはすぐ分かった。
息を切らして彼女は叫んだ。
「蓮!!」
その声で、彼女が奈美だとすぐ分かった。
「奈美さんっ!!」
蓮は、ずぶ濡れの奈美を今すぐ抱きしめたかった。
しかし・・・。
信号が赤になってしまった。
車が2人の間を滑るように流れていく。
しかし、そんなものは2人とも気にならなかった。
どれだけ、この時を待っていたか!!
一日千秋の思いで・・・。
赤の信号がゆっくりと時を刻む。
そして・・・!
2人の間が青に変わった。
奈美は走って、蓮の近くまで来た。
通りすがりの歩行者が奇妙な顔で通り過ぎて行ったが、2人には関係なかった。
「奈美さん!なんで駅で待ってなかったんですか!?ずぶ濡れじゃないですか!?とにかく僕の事務所に行きましょう!!」
蓮が奈美の手を引っ張って、連れて行こうとした時だった。
「蓮!!」
奈美が蓮を後ろから抱きしめた。
その途端、蓮の持っていた傘が、ヒラッと落ちた。
「蓮!!逢いたかった。どれだけどれだけこの時を夢見ていたか・・・!!」
蓮は、こぶしを握り歯を食いしばった。
このままでは禁を破ってしまう。彼女は人妻だ。
でも・・・!
蓮は前を向き、思いっきり奈美を抱きしめた。
「奈美さん!!ごめん!!君を地獄に突き落としてしまうかもしれない・・・!!」
「いいの、あなたとなら地獄に落ちてもいい!!」
2人は涙を流しながら、お互いを見つめ合った。
そして、ゆっくりと口づけを交わした。
最初はフレンチキスを。
そして、蓮が言った。
「やはり僕と奈美さんは、1つの魂だった。
1つの魂ならいずれまた相寄ると。
本当にそれが叶った!!愛してる。奈美!!」
今度は、蓮から奈美に思いっきり口づけを交わす。
深く苦おしい、激しくとろける様なキス。
今、2人は幸せだった。
そして2人は一緒に蓮の事務所へと向かうのだった。

次回予告☆彡

雨はまだ、音を立てて降っていた。
まるで全てを押し流すかのように・・・。

蓮の事務所に久しぶりに来た奈美は、
震える体を両手で覆った。
蓮も奈美も全身ずぶ濡れだった。
「奈美さん。タオル持って来ます。
奈美さんも着替えてください。」
蓮がタオルを持って来ようとした時だった。
奈美が蓮にいきなり抱き着いた。
そして、上目遣いで蓮を見た。

「奈美さん・・・。」

蓮は震える手で、奈美の頬を撫でた。
そして2人は見つめ合った。

蓮は、奈美の瞳を見つめながら、
ピンクの洋服を脱がした。
蝶の刺繍が入った、青のキャミソール姿。
彼はデニムのボタンを外し、
衣擦れの音を立て、
キャミソールもフワッと落ちる。
奈美のブラジャーとショーツも、
青の蝶の絵柄だった。
蓮は、露わになった妖艶な彼女の姿を
暫く見つめると、一言。
「綺麗だ…」
と呟いた。
そして、蓮は激しく奈美を抱きしめた…

乞うご期待❣️

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